ジェネシス・ベランジャー「ANOTHER MAN’S TREASURE」|何気ないものから感じること
今回は六本木にある「ペロタン東京」にて開催したジェネシス・ベランジャーさんの個展「ANOTHER MAN’S TREASURE」の模様をご紹介します。
この記事を読むとこんなことが分かります。
- ジェネシス・ベランジャーさんとその作品について知れる
- 大量消費社会やジェンダーについて考えるきっかけになる
今回の展覧会は、ニューヨークを拠点とするアーティスト、ジェネシス・ベランジャーさんにとってはアジア初となる個展です。また、パリ発のメガギャラリーの「ペロタン」は、村上隆さんを海外で初めて紹介したギャラリーでもあります。
そんな場所で新たなアートとの出会いをしてきた感想をまとめます。
ジェネシス・ベランジャーとは?
ジェネシス・ベランジャー(Genesis Belanger)さんは1978年生まれのアーティストで、現在はニューヨーク州ブルックリンを拠点に活動をされています。
MFA(Master of Fine Arts)という芸術科目をベースとした大学院の修士号取得前にプロップスタイリスト(美術や小道具の専門のスタイリスト、プロモーションビデオや雑誌、ショーウィンドウなどの空間演出をプロデュースする仕事)として働いていたそうです。
その経験もあり、広告業界の巧みな戦術や女性の客観化、一般の人々の内面などのテーマを探求した作品も制作しています。
作品の特徴は“物体を身体の代替品として取り扱う”こと
ジェネシス・ベランジャーさんは主に、日常生活で見かけることのあるもの(ヘアアイロン、扇風機、紙袋、花、ドーナツなど)や身体の一部を切り取ったものを立体作品にしています。身体の一部を取り入れることで、シュールな雰囲気を感じつつも、どこか親しみも感じさせます。
ジェネシス・ベランジャーさんが表現する心理的にかき立てられたイメージを突き詰めると、
- 進歩しつつも停滞する社会のジェンダーに対する固定観念や平等性への指摘
- 大量消費主義の批判
があるようです。
展覧会名「ANOTHER MAN’S TREASURE」の意味
今回の展覧会タイトルとなっている「ANOTHER MAN’S TREASURE」とは、英語の慣用句“one man’s trash is another man’s treasure(誰かのゴミは、誰かの宝)”に由来しています。日本でいうところの「捨てる神あれば拾う神あり」ということわざと似ています。
この比喩を核に、ポップな立体作品の中に巧妙なアイロニーを注入しています。
ありふれたものの集合体は、人によっては必要なものだったり、人によっては必要のないものに映ると思います。そんな静的な対話を通して、大量消費やジェンダーなどの文化的な課題について再考するきっかけを提示しているようです。
展覧会の模様を見る
それでは、今回の展示作品を観ていきましょう!
人間の行為や意図を感じる作品
When Dad Does the Shopping
紙袋の中に入った花と(パッと見てスプレーと勘違いしましたが)パック入り牛乳、煙を出した葉巻が置かれています。解説を見ると、こんな言葉が添えられていました。
いっぱいに詰め込まれたゴミ袋とジャンクフードに紛れて、食料品買い出しの戦利品が入った“紙”袋、《When Dad Does the Shopping》(お父さんが買い物をしたとき)がどさっと置かれています。
ープレスリリースより引用
お父さんの試みには、若干の疑念が抱かれます――その鮮やかな花は、謝罪を意味するのでしょうか?葉巻は、祝い事を示すマッチョなシンボル?パック入り牛乳は、家族を養おうというぎこちない試み…?
買い物荷物の中身は、その人の意図を反映している気がします。何気ない日常に花を添える優しさが、そこにあるように感じました。
Delayed Gratification
腹ごしらえに丁度良いハンバーグと、その隣に満足を得た跡の姿を置くという、”遅らせた満足感”というタイトルの意味がよく分かる作品です。
1000 Apologies
いろんな花を束ねた作品。そのタイトルには、「1000のお詫び」という言葉が添えられています。個人的に花は感謝やお祝いの象徴というイメージがありましたが、この花束は逆のイメージで使われているみたいです。
また、街角の花屋を想起させ、花盛りの花々はじっと貰い手を待っているようにも見えます。
世界は複雑にできていると感じた作品
一見、関連性の見えてこない道具や身体の一部、そこからどんなことが見えてくるのでしょう。
Good Proportions
シュールな見た目に惹かれる作品です。この作品のみが段ボールの上に置かれていて、作品全体を照らしているようです。
Hot Rod
ヘアアイロンにドーナッツが通っている作品。本来の用途では使われなくなったものが、もともと不要で空けられた穴を埋めている。不要の道具が自分なりの存在意義を探しているような印象を受けます。
Constrained Happiness
手が口を持っている作品。”制約された幸せ”という意味のタイトルを通して観ると、しゃべりたいことをしゃべる口を、手がコントロールしているように見えます。
作品を個々に注目した後に、全体を俯瞰してみると、ジェンダーについてのメッセージがあるような作品もあれば、人の手へ渡り蘇ることを望んでいる道具たちの姿もあり、複数の問題敵をしているように見えます。
複数の問題が自分の見えている景色以外にも存在していて、世界は複雑であるということを、このカーペット一枚の上に表現しているように感じました。
日本のわび・さびとの関連性を考えてみる
Masculine Still Life: Past Your Prime
最後に、ジェネシス・ベランジャーさんの作品を観て感じたことをまとめてみます。
今回私が感じたのは、日本のわび・さびとの関連性でした。
作品には日本になじみのないモチーフもありながら、(身体のモチーフは別として)買おうと思えばいつでもネットで購入できるものが展示されています。それは豊かな生活ができるようになったからとも思えますが、便利さゆえの消費慣れをした大量消費社会を象徴しているようにも見えます。
日本もまた大量消費社会となっていますが、一方で、日本にはわび・さびという「富・力・名に頼らず、ありのままの状態を良しとする」文化もあります。日本にある文化に今一度目を向けて、現代を改めて眺めてみるきっかけになったように思います。
生活に刺激を求めるのが普通になっている今、心に積もった埃をふき取るように、五感をリセットし「ありのまま」を再発見できる展覧会でした。
まとめ:生活の価値観を再考する
ジェネシス・ベランジャーさんの作品を鑑賞をしてきました。
大量消費できるからこそ生活は便利になっていますが、一方で、いずれ捨てられてしまうものを生産していることへの疑問を感じる作品でした。
また、海外のアーティストの作品を通して、世界には複雑な課題があり、多様性もあることを知ったり、改めて日本文化について考え直してみたりするきっかけになりました。
作品を静観して、「自分らしい生き方とは何か」という価値観を組みなおす時間にもなるのではないでしょうか。メガギャラリーだからこそ観れる世界の作品でした。
展示会情報
展覧会名 | GENESIS BELANGER ANOTHER MAN’S TREASURE |
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会場 | ペロタン東京 港区六本木6-6-9ピラミデビル1F |
会期 | 2021年7月28日~9月15日 ※日、月休廊 ※2021年8月8日(祝)~8月16日(月)の間、夏季休廊 ※コロナ対策、安全を考慮し完全予約制となっております。予約はこちらから。 |
開廊時間 | 12:00~19:00 |
サイト | https://leaflet.perrotin.com/view/119/another-mans-treasure |
観覧料 | 無料 |
アーティスト情報 | ジェネシス・ベランジャー(Genesis Belanger) さん Instagram:@genesisbelanger |
参考リンク
・GENESIS BELANGER「ANOTHER MAN’S TREASURE」プレスリリース