【書籍紹介】みんなの現代アート-大衆に媚を売る方法、あるいはアートがアートであるために(グレイソン・ペリー)|軽快な美術入門書
もし子どもに「良いアートって何?」と聞かれたら、あなたならどう答えますか?そこに明確な答えが出せるものではないと思った人におすすめな本がこちらです。
今回はグレイソン・ペリーさんが執筆した著書「みんなの現代アート─大衆に媚を売る方法、あるいはアートがアートであるために」の特長とおすすめポイントをご紹介します。
要点だけ知りたい人へ
まずは要点をピックアップ!
- 本書はアートのあらゆる疑問をイギリス出身の有名な陶芸作家グレイソン・ペリー(Grayson Perry)さんが答えた書籍です。アーティストとしてのキャリアがあるからこそいえることを、皮肉とユーモアたっぷりな語り口調で紹介しています。
- 書籍内にはイラストもあり、概念をイメージで捉えやすくなっています。
- 本記事では、私が読んで良かったと感じた3つのポイント
「アートの評価は時代と共に変化することを教えてくれる」
「アートかそうではないかの「境界線」の考え方がわかる」
「真剣さがアート界で最も価値のある通貨」
を中心にご紹介!
本書の特長:現役アーティストが「アートとは何?」の疑問に答えている
本書の特長を一言でいうならば、「アートとは何?」という疑問をイギリスを代表するアーティストがイラストも交えてイメージしやすく説いている点です。そこには、アート界の第一線で活躍している人だからこその説得力があります。
アートとは感覚的で、
- 知識がないとアートは楽しめないのではないか?
- こんなこと今さら聞いたら無作法ではないか?
- 作品を観てもアートの良さがいまいち分からず終わるのではないか?
といったことを考えてしまいがちです。
でも、その疑問はむしろ生まれて当然だと勇気づけてくれるのが本書です。
アートの世界は人びとからの疑問を常に必要としており、そのような疑問をもつことこそ、アートを楽しみ理解する助けにもなるのだ。
ー 「みんなの現代アート─大衆に媚を売る方法、あるいはアートがアートであるために」より引用
アートについての湧き上がる疑問の数々に対する考え方や、具体的な事例まで、軽快さを感じる語り口調で読み進めることができます。
3つのおすすめポイント
本書を読んで良いなと感じたポイントを3つご紹介します!
1. アートの評価は時代と共に変化することを教えてくれる
ひとつめは、アートの評価は時代と共に変化することを教えてくれる点です。
現代アートは今やレディメイドの小便器すら有名なアート作品と言われる時代です。そんな中で、アートを判断する評価軸とは何なのでしょうか。「良いアートはこういうものだよ」と教えてくれる人がいれば楽ですが、そんな明快な答えを出してくれる人はいません。
こうした明確な答えが出せないのだろうという疑問への答えを言語化できていませんでしたが、本書を読んで、
「経済的価値、人気、美術史的重要性、美学的教養」といった要素を
「いつ、どこで、誰が、どのように」評価するかによって、良いアートは変化していく
ということなのかもしれないと、一つの答えに辿り着けました。
デジタル化によって携帯電話がスマートフォンに移り変わるように、時代によって人々の感じる価値は変化します。変化するからこそ、普遍的なアートの評価軸はなく、常に変化していると考えるとイメージがしやすかったです。
アートになり得るものによってアートの領域が定義されるのではなく、時代の変化とともにアートの評価は変化していくのでしょう。
2. アートかそうではないかの「境界線」の考え方を知れる
ふたつめが、アートと呼べるものとそうでないものの境界線についての説明がわかりやすかった点です。
簡潔にいうと、さまざまな評価軸の重なり合いで境界線が形作られていくということです。例えばで、こんなイメージ図になるのかなと思います。
中には数値的な基準もあって驚きました。
重なり合う要素が多ければ多いほど、それはアート作品と判断されていきます。今後アートを観る際にも、この考え方は参考になると感じました。
3. 「真剣さ」がアート界で最も価値のある通貨
本書を読んで最も印象的だったのが、「真剣さ」という言葉です。
アート作品は今やなんでもありで、ガラクタでさえ「アートです」と言われたらそうかもしれないと思わずにはいられず、混乱してしまいます。
また、すごく綺麗に描かれた作品でも、アート界では評価されていないものも存在していている状況で、何がアートの価値を決めているんだろうと考えてしまいます。
そんな疑問に、グレイソン・ペリーさんはこう答えています。
私はアーティストとして真剣に向き合ってもらうことを望んでいる。トレンディかつオシャレであることが脅威でしかないのは、いつかオシャレでなくなることが避けられないから。真剣さは違う。
ー 「みんなの現代アート─大衆に媚を売る方法、あるいはアートがアートであるために」より引用
目の前にある作品ができるまでに、その人がどれほど真剣に自分の内面や生み出す作品、そして外的要因などと向き合ってきたのかが大切な要素なんだなと感じます。破天荒なもので注目を集めるよりも、オシャレでクールなもので大衆の目を引くよりも、「真剣さ」が大切な指標になるのかもしれません。
また、ギャラリストのセイディ・コールズに「所属アーティストを探している時に求めることは何か」と聞いた際に、「コミットメント!アーティストでいることに対する真剣さ!」と答えたそうです。
真剣さを宿した作品を制作し続け、それがアート市場で目に留まり続けることでアーティストは評価されていき(そこがものすごいハードルなのだと思いますが)、良いアートに近づいていくのだなと感じました。
誰かのものではない”みんなの現代アート”を楽しもう!
ピカソがいった有名な言葉に、「すべての子どもはアーティストだ。問題は彼らをアーティストのままでいさせることができるかどうかだ」というものがあります。
子どものころは自分の世界で生き、表現できる無邪気さを持ちますが、大人になると世間に意識的になり、自意識を持つようになります。
アートについて分からないことがあったとしても恥ずかしがらずに、むしろ疑問があったら手をあげて無邪気に聞いてしまうところから、アートの楽しみは広がっていくと思います。
本書がそんなあなたの背中を押してくれるはずです。
著者:グレイソン・ペリーとは?
グレイソン・ペリー(Grayson Perry)さんは1960年生まれ、イギリス出身のアーティストです。
ダミアン・ハーストさんも過去に受賞歴があるイギリスの権威ある賞、ターナー賞に2003年に受賞されている、イギリスで最も名の知れた陶芸作家のひとりです。
アーティストとしての活動だけにとどまらず、多数のドキュメンタリー番組の制作やトランスヴェスタイト(女装家)として幅広く知られている一方で、2015年にはロンドン芸術大学の総学長に就任するなど、アート分野において権威のある人物でもあります。
そんなアーティストが「アートとは何?」という答えづらい質問に対して、皮肉たっぷりの語り口調で、自身の経験も交え、寛大で愛情深い器を持つアート界を語る書籍となっています。
奈良美智が「キルケゴール的な反弁証法のよう」と推奨
私がこの本と出会ったきっかけにもなったのが、日本のアーティストである奈良美智さんによるTwitterの投稿でした。
奈良美智さんはTwitterで日常の出来事やよかったもののシェアをされていて、最近読んだ本でおすすめのものも時々紹介してくれます。
その中で、「最近読んだ美術系ではこの本がダントツ面白かった!それこそ、キルケゴール的な反弁証法のようであった。」というコメントが気になり、美術入門書としても参考になるのではと思い、手に取ってみました。
本書を読んで少しでも興味が湧いたら、おふたりのSNSもチェックしてみてくださいね!
グレイソン・ペリー(Grayson Perry)さん:Instagram:@alanmeasles/Twitter:@michinara3