【ムック本紹介】「日本の現代アート名鑑100」Casa BRUTUS特別編集(3つの特徴をご紹介)
アートは展覧会で体感して楽しむだけでなく、アート情報に特化したムック本を通して楽しむ良さもあります。今回はCasa BRUTUS特別編集のムック本「日本の現代アート名鑑100」をご紹介します。
要点だけ知りたい人へ
まずは要点をピックアップ!
- 国内外で活躍するアーティストから、今後の活躍が期待される若手アーティストまで、今知っておきたい現代美術作家100組が紹介されています。
- アートムーブメントや話題となった展覧会、新技術といった観点から、コレクターから著名人などのプレイヤー視点まで、さまざまな切り口で作家・作品を知れます。
- 全ページフルカラーで作品をチェックできます。
個人的に読んで良かった点は2つ
- 既知の作家をより深く知り、新たな作家の表現とも出会えた
- 国内外で長く活躍し続ける日本人作家の言葉から、生きた教訓を得られた
記事内では具体的な作家さんもご紹介しつつ、ムック本の魅力をご紹介していきます!
「日本の現代アート名鑑100」の特長
まずは「日本の現代アート名鑑100」の特徴を3つご紹介します。
1. 今知っておきたい現代美術作家100組を紹介している
1つめの特徴は、ムック本には日本が世界に誇る現代美術作家が合計で100組紹介されていることです。その中には国内外で活躍するアーティストもいれば、今後の活躍が期待される若手アーティストまでが含まれています。
100組全てが同じ粒度で掲載されている訳ではありませんが、今後の現代アートを知る上でどの情報も参考になるものばかりです。
例えば、2020年森美術館で開催された「STARS展」に集結した日本を代表する現代美術作家6人(村上隆さん、李禹煥さん、草間彌生さん、宮島達男さん、奈良美智さん、杉本博司さん)を、キュレーションの背景から作家インタビューまで詳細に紹介されています。
なぜこの6人のアーティストが選ばれたのか、グループ展である必要性、そもそもどんな作家なのかを多角的に知ることができます。
2. さまざまな観点やプレイヤーの視点から作家・作品を知れる
2つめの特徴は、歴史や展覧会、新技術といった観点から、アート界で活躍するプレイヤーの視点まで、さまざまな切り口で作家・作品を知れる点です。
具体的には以下の12カテゴリーに分けられています。
EXHIBITION | 日本の現代美術史に残るアーティストの展覧会から紹介 |
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STARS | 2020年森美術館で開催された「STARS展」に集結した作家とその作品を紹介 |
TIMELINE | 1950年代〜2020年代までの日本の現代美術史を年表で紹介 |
ART MATRIX | 国内、国外に分けた時の1950年代〜2010年代別ざっくりアート俯瞰図 |
MOVEMENT | 日本のアートムーブ「具体美術協会」「ダムタイプ」とその作家を紹介 |
PLATFORM | 2021年から話題となったNFT(非代替性トークン)と、業界のデジタルシフトについて紹介 |
STUDIO VISIT | 現代美術のトップランナーのスタジオから見る作品制作 |
MASTERPIECE | アーティストの名作から作家を知る |
COLLECTION | アートコレクター高橋龍太郎さん、桶田俊二・聖子さんの視点から見る作家と作品 |
MY FAVORITE | アートの目利きが選んだ、今知ってほしいアーティストたちを紹介 |
UPCOMING | 近年注目が高まる若手アーティストをピックアップして紹介 |
RECOMMEND | さまざまな分野で活躍する現代アートの識者が選ぶ注目アーティストを紹介 |
例えば、人にフォーカスしてみると、有名なアートコレクターや身近なアーティストまで、いろんな人がアートコレクションをしているんだなと気づかされます。
アートコレクター「桶⽥俊⼆さん・聖⼦さん夫妻」
長年ファッションビジネスに携わってきたアートコレクター桶田夫妻のコレクションは「好きな服やデザイナーを選ぶ」ように、自由ながらも発色が良い作品群が並んでいました。
直近のアートフェア東京2022でも観た作家の作品も多分に含まれていて、どういう理由からコレクションしたのかも一部紹介されています。
また、桶田夫妻は自身のコレクションを「OKETA COLLECTION」として無料で一般公開する活動もされているので、実際に生で作品を観に行くのもおすすめです。
Perfume「かしゆかさん」
そして、中にはテクノポップユニットPerfumeのメンバーであるかしゆかさんがコレクションしている作品も紹介されていて、「かしゆかさんアートコレクションしてるんだ!」という新鮮な驚きがありました。
かしゆかさんは「純粋に心が和らぐもの、寄り添えるもの」を選んでいて、Perfumeの音楽が放つ世界観と呼応しつつも、落ち着いたグラデーションの作品が並んでいて心地よい感覚になりました。
ちなみに、Casa BRUTUSの中では「古今東西かしゆか商店」という、職人の手作業でできた日本伝統工芸の「粋」を集める特集も連載されています。ものづくりの現場をみることが、アートを選ぶ目にも反映されているのかもしれません。
3. 全ページフルカラーで作品をチェックできる
3つめの特徴は、ムック本ならではの特徴である、全ページフルカラー掲載で作品をチェックできることです。アート作品は特に、カラーである程度大きな画像でないと作品を細部までチェックできません。
その点、今回のムック本は全ページがフルカラーとなっていて、かつ冊子サイズも23 × 28.4cmと大きいので、基本的には作品の雰囲気を掴みやすくなっています。
もちろん、本物の作品を生で観るのが一番というのはいうまでもありません。
良かったポイント
ここからはCasa BRUTUS特別編集「日本の現代アート名鑑100」を読んで良かったと感じたポイントを2つご紹介します。
1. 既知の作家を深く知り、新たな作家の表現と出会える
1つめが、すでに知っているアーティストでも作品を観るだけでは知り得なかった、今の表現に至るまでの背景やメッセージを知れたり、今まで知らなかったアーティストとも出会えたりしたことです。
展覧会ではアーティストの「今」を知ることはできても、その「過程」を知る機会はなかなかありません。その点、アーティストのコメントや説明文も合わせて掲載されているため、「こんなバックボーンがあったから今の表現に到達しているんだ!」といった発見がありました。
例えば、2021年に日本で初個展を開催した森本啓太さんの紹介ページで、「主観によって世界の見え方が変わる」という、世界を主観的に捉えるという観点が作品に含まれているんだということを知りました。
その観点で改めて作品を観ると、「確かに自然な光の表現というよりは、スポットライトを当てて強調しているみたいだな」と、また違った捉え方ができて面白いです。
また、今後このアーティストの展覧会に行ってみたいと思った、新しい出会いもありました。
そのひとつが、アーティスト荒神明香さん、ディレクター南川憲二さん、インストーラー増井宏文さんをコアメンバーとする現代アートチーム「目(め)」です。作ってないを目指し、日常を揺るがす作品を制作されていて、中でも《憶測の成立》(2015)という作品が面白かったです。
一見さびれたコインランドリーですが、洗濯乾燥機の中が異次元の入口になっていて、中に入って進み、いくつかの動線を抜けた先の丸窓を出ると、最初に入っていったコインランドリーになるというパラレルワールドのような体験ができる作品です。
「なぜ?!」という体験と、よくよく考えると同じコインランドリーの部屋がふたつ作られていると分かった時の騙された感覚が面白おかしいと感じます。東京でも展覧会があったら行ってみたいなと思いました。
2. 作家の生きた教訓を得られる
2つめが、アーティストの背景から生きた教訓を得られたことです。これは特に、長年国内外で活躍しているアーティストが語る生き様から得るものがありました。
特に、今回は奈良美智さんのインタビュー記事からの発見が多かったです。
まずは、学ぶことについての言葉です。
伝統や古いものに惹かれていたから、20歳の時旅したヨーロッパは街中に歴史が残る場所で圧倒された。そういう絶対かなわない相手の懐に飛び込んで、負けながら勉強すればいいのかなって。
ー Casa BRUTUS特別編集「日本の現代アート名鑑100」より引用
この「負けながら勉強」というフレーズが印象的でした。歴史という自分の人生全てを使っても追いつけないものの中で劣等感を感じながらも、学生のアマチュア精神を持って何かを得ようとする挑み方がかっこいいなと感じます。
次に、東日本大震災から教わったという、身近にある大切なものについての言葉です。
一番大切なものはすでに足元にあって、それを見過ごしたり邪険にして、ただ新しいものをつくろうとしていたんじゃないかってね。大切なものは裏切らないという安心感があるから、一番愛してくれる故郷の親も簡単に捨てて家を出てしまったりするでしょう?
ー Casa BRUTUS特別編集「日本の現代アート名鑑100」より引用
身近な人なら無意識に裏切られない安心感から知らぬ間に傷つけていたりしている、自分の人生を振り返ってみても思い当たる節が結構ありました。現代アーティストこそ自分とたくさん向き合って作品制作をされていると思うので、その言葉にも重みがあります。
「今」を生き、アートで表現する日本の現代アーティストをムック本でチェックしよう!
188ページとボリュームがありながらも、100組の現代アーティストをコンパクトにまとめている、バランスの良いムック本でした。
今を生きるアーティストをムック本で読み解いた後に行く展覧会も、いつもと違う視点から深く楽しむきっかけになると思います。
本書を読んで、新たなアートとの出会いを紡いでみてはいかがでしょうか。