Backside works.「ヒロイン中毒」展|近くにいる愛しいバケモノを描いたアート
鑑賞者を主人公にしてくれる「ヒロイン」はあなたに、どんな表情をみせてくれるでしょうか?
今回は原宿 神宮前にあるSH GALLERYにて開催したBackside works.さんの個展「ヒロイン中毒」展の模様をご紹介します。
要点だけ知りたい人へ
まずは要点をピックアップ!
- Backside works.(バックサイド ワークス)さんは本名、年齢、性別不詳、顔出しもしていないアーティストです。
- 「ヒロイン」をコンセプトとした作品を制作されています。
- 本展ではステッカーを用いた作品から多肉植物と少女の作品、アート鉢、ステッカーアート、ネオン管を用いた作品、NFTなどが展示されていました。
それでは、観ていきましょう!
Backside works.とは?
Backside works.(バックサイド ワークス)さんは本名、年齢、性別不詳、顔出しもしていない謎めいたアーティストで、福岡を拠点に活動しています。
1980・90 年代のアニメやマンガといったサブカルチャーの影響を受けているそうで、ミクストサブカルチャーアート(自称)を掲げています。
もともとストリートを中心に活動してきたことから、少女の日常を切り取ったようなワンシーンをモチーフとした《VALIANT GIRL(バリアント ガール)》シリーズのステッカーも積極的に制作していて、時にステッカーを手にした人が路上にタギングすることもあるとか。
河合塾のポスターで観たことがある人も多いのではないでしょうか。
「ヒロイン」をコンセプトとした作品
《VALIANT GIRL》シリーズを始め、作品には少女という「ヒロイン」が登場します。
“私がやるべき事は1つ。ヒロインをあなたの元へ”
ーアーティストプロフィールより引用
この言葉の通り、作品を観ていくと次第に鑑賞者自身が“主人公”となった感覚になり、自分にとってのヒロインへと変化していきます。
作品の中に描かれるヒロインにはストーリーを持たせていて、詳細なストーリーの作り込みもなされているそうです。
鑑賞者という主人公と共に物語を構築する存在「ヒロイン」を描くという信念から生まれる彼女たちだからこそ、観る人にとって愛しい存在に変化していくのかもしれません。
ヒロインは、バケモノである
今回の展覧会に添えられたアーティストステートメントは以下の通りです。
ヒロインは
– Backside works.
物語の最大のミステリーであり
どんな敵より強大だ
妖の魔法であなた心を掌握し
いつしか己より
大切な存在として君臨する
彼女の笑顔が見れるなら
どんな困難にも立ち向う
命を賭して
そう
ヒロインは、バケモノである
ステートメントにもある『ヒロインは、バケモノである』というキーワード、一見すると相反する言葉が並んでいます。
作品コンセプトを知った上でその言葉を読み返してみると、主人公(=鑑賞者)がヒロインに心を奪われ過ぎると中毒のように離れられなくなり、優先順位が簡単に入れ替わってしまう危険性も持っていると感じます。
その危険性を知った上で良しとする美学、そう考えた時にルパン三世という人物像が頭の中に浮かんできました。
どんな存在のヒロインでも許容できる器と技術を持てる自分であれた時、作品の中のヒロインたちはバケモノのような魅力を届けてくれるのかもしれない、そんな想像をしながら作品を鑑賞していきました。
展示作品を鑑賞
多肉植物と少女
入ってすぐに目に入る《多肉少女》は、作家自身が植物を大好きになりすぎてアート鉢を作った際に書き下ろした作品なのだそうです。
その物語を知って観ると、「愛でてきた植物との記念写真」のようで可愛らしいです。
額は無地という固定概念がありますが、その額にはヒロインがステッカーのように描かれていて、ステッカーを路上に貼るタギングのようにも見えます。
Backside works.さんらしい、これまでのストリートでの歩みも感じ取れる作品でした。
こちらはシルクスクリーン作品。
ミクストメディア作品と比較してみると、口紅の色味など違いは観てとれるものの、原画も筆跡を感じ取れない平面的な印象を受けます。
また、描かれている少女は「サブカルちゃん」という愛称があるそうで、下をピッと出して「ここまで育ったぜ、あなたの植物はどう?」と自慢されているような対話が楽しめました。
サブカルちゃん
メインとなる少女が額装の透明パネル上に描かれた作品。
その後ろにあるキャンバスには、これまでの《VALIANT GIRL》シリーズの少女たちが登場しています。
キャンバスにはステッカーがそのまま貼られたものと、経年でかすれたように描かれたものが混在しています。
街並みの変容に合わせて劣化していくのも味を生み出し、その上に新たなステッカーが貼られて、地層のように時を重ねる様子が表現されているようでした。
また、展示方法も壁ではなく、箱の上に寝かせて置く形となっていて、そこからも「地層」というワードを彷彿とさせました。
その花言葉は『ヒロイン』
Backside works.さんの代名詞ともいえる、キャンバス原画にステッカーを貼り付けたステッカーアート作品です。
中央にいるヒロインを中心に、ステッカーが花のように咲き誇っているようで、まるで春の訪れを告げる桜の木のようだなと感じました。
花言葉はまさしく「ヒロイン」となりそうです。
実はこの作品のステッカー、ひとつ前の展示期間中に催された参加型アートイベントで来場者がステッカーを一枚ずつ貼っていき完成した作品になります。
Backside works.さん曰く、「ステッカー配置、レイアウトで2日は悩む」そうで、その緊張感を体感できるイベントとなっていました。
この作品はチャリティオークションに出品されるそうで、そこで得た利益の一部を生活に困窮している子供達やその家庭へのサポート活動をしているNPO法人「グッドネーバーズ・ジャパン」へ寄付されるとのことでした。
マンイーター
「MANEATER(マンイーター)」と名付けられた彼女も、よくBackside works.さんの作品に登場します。
なぜそんな名前がついているのか、そこにはストーリーがしっかりとあるそうです。
彼女自身は普通の女の子ですが、なぜかいつも男が寄ってくる。
そしていつの日か彼女は「男喰い(マンイーター)」と呼ばれるようになっていました。
しかし彼女自身はそんな噂を信じる訳でもなく、今日も夜の街を彷徨う。
今回の作品の表情は柔らかく色気があり、そんな異名を持っているのがよく伝わってきます。
そして彼女の座る場所には「MANEATER」の文字が、水玉背景からうっすらと浮かび上がっています。
異名なんて気にしない様子がそこにも現れていて、でもその姿勢がマンイーターへの中毒性をより一層増していくようにも見えました。
ネオン管を用いた作品
某幽霊退治映画のロゴのようにも見えるネオン管作品。ネオン菅では必要最低限の線を表現し、その後ろには女性の姿も描かれています。
展示会場の奥に配置されているところにちょっとした意味を感じます。どういうことかというと、本展タイトル「ヒロイン中毒」とあるように、入口からはいっていくつかの作品を鑑賞していくうちに、主人公となった鑑賞者は作品の中のヒロインたちに魅せられてしまい中毒状態になっていきます。
展示の最後に禁止マークの作品が現れることで、「これ以上の(ヒロインへの)侵入はお控えください」という警告を示しているようでした。
その警告を無視してさらにヒロインへ踏み込もうとしたら、ヒロインがバケモノと化してしまうのかもと、想像しながら鑑賞を楽しみました。
バーチャルスニーカーのNFT作品
デジタルファッションブランド「1Block」とのコラボNFT作品も映像で流れていました。
ファッション=身につけるものだと思いますが、それがNFTとなっていくとどうなるのか、今後の取り組みにも注目です。動画で観ると一番大きく描かれた少女がウィンクしていて可愛らしい作品でした。
まとめ:ヒロインの魅惑と距離感を考察できる展覧会
Backside works.さんとその展覧会作品をみていきました。
グループ展などでは何度か見かけていましたが、個展は私自身初めてとなりました。
Backside works.さんの描くヒロインは鑑賞者すべてにとっての「ヒロイン」になれる魅力があり、そこには多くは語られませんが詳細なストーリー構成の上で成り立っていると感じました。
その魅力に近づき過ぎると「ヒロイン中毒」になってしまうよと忠告される導線も面白く、そのおあずけされる感じがむしろ中毒をこじらせそうな気もする絶妙な距離感が素敵な展覧会でした。
展示会情報
展覧会名 | 「 ヒロイン中毒 」展 |
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会場 | SH GALLERY(Instagram:@sh_gallery_tokyo) 東京都渋谷区神宮前3-20-9 WAVEビル3F |
会期 | 2022年2月22日(火)~2月27日(日) |
開廊時間 | 12:00~19:00 |
サイト | https://www.shartproject.com/news/backside-works-solo-exhibition_202202/ |
観覧料 | 無料 |
作家情報 | Backside works.さん|Instagram:@backsideworks |