【個展レポート】城愛音「透明な時間」|冴える色彩のグラデーションが輝く情景を映し出すアートをご紹介
面積のある独特の筆致と色彩のグラデーションから生まれる絵画が印象的な、城愛音さんの作品。
身近にある何気ないけど大切な瞬間を色に変換し描き出したようなアートを観ていくと、日常でふと感じる穏やかな感覚を想起させてくれます。
今回はTAKU SOMETANI GALLERYにて開催した城愛音さんの個展「透明な時間」の模様を、累計130の展覧会レポートをまとめ、2021年からアートコレクションをしている視点からレポートしていきます。
城愛音とは?
城愛音(じょう あいね)さんは1994年生まれ、大阪府出身の作家です。
2017年に京都市立芸術大学美術学部美術科油画専攻を卒業、2019年に京都市立芸術大学大学院美術研究科修士課程絵画専攻油画を修了されています。
主な展覧会に
- グループ展「Movement-Vol.1」(2023、Artglorieux GALLERY OF TOKYO、東京)
- 個展「城愛音 展」(2023、Oギャラリーeyes、大阪)
- 個展「Reflexion」(2022、芝田町画廊、大阪)
などがあります。
アートの特徴:透明感のある色彩をグラデーションで描いた作品
城愛音さんは主に「自分にとって親しい身近な人物」を対象に作品を制作しています。
しなやかな独自のストロークと、そこから生まれる冴えるような色彩表現が特徴的です。
人がみせる「何気ない一瞬」を切り取り、その人を取り巻く浮遊しているような感覚を、色鮮やかなグラデーション、面積のあるストロークの重なりで表現しています。
純粋な色の心地よさや、そこから想起される穏やかな時間と記憶を受けて、心ほぐされる感覚になります。
城愛音個展「透明な時間」展示作品をご紹介
関西を中心に活動されている城愛音さんにとって2年ぶりとなる、TAKU SOMETANI GALLERYでの個展。
鮮やかな色彩が迎えてくれる展示空間を、展覧会の紹介文にある「色で記憶」や「輝くような透明な時間」といった言葉にも注目しながら観ていきましょう!
- 今回参考にした展覧会の紹介文はこちら
…あの風の色、光、温度、季節感。
絵を描くとき、「その時」に感じた印象を思い出しながら、ひとつずつグラデーションに置き換えている。
私の場合、何気ない日々の出来ごとは色で記憶されやすい。
疾走、焦燥、軽やかさを感じながら、眼が冴えるような色を紡いでゆく。
これらの集積が、反射光や硬質な眩しい光にみえてくる。
どこまでも個人的で、輝くような透明な時間を、絵の中にとどめておきたい。
絵画作品①:抽象的な色の重なりが生み出す情景の奥行き
まずは今回の展示で最も大きな、メインともいえる100号の《雨の島II》という作品。
作品は実際にモチーフとなった場所があるそうで、例えば画面左にある縦線は電柱を表しているそう。
こうしたモチーフは筆致の重なりによって立ち上がりつつも、実態を捉えらきれない程度に抽象度高く描かれています。
その中で傘を持った人物や、近くで観ると光の輝きのような痕跡を捉えることができます。
色の重なりが奥行きのある空間を生み出しているようで、人物が遠くの水平線を眺めている様子からも、遠景を想像させます。
ちなみに、この像の立ち上がりと奥行きを描く過程は、SNS発信からチェックできます。
100号、できあがるまでのプロセス
— 城愛音 / JoAine💫11/3~22個展 (@iue_joe) November 10, 2023
(1/3) pic.twitter.com/bajUKfFOv4
絵画作品②:色彩が生む描写と絵の具による質感の違い
《雨の島II》から時計回りに目を進めていくと、2番目に大きな作品《星降る夜に》と目が合います。
絵の具の滴る表現が印象的で、その間から垣間見える星のような輝きが、まるで雫が光を反射し風景を鮮やかに照らしているようです。
手元に目を移すと、蛍のような淡い緑色のグラデーションが、スマホの放つ光のように見えます。
その光が傘の内側も反射板のように照らし出していて、傘を持つ女性にささやかなスポットライトを当てているようです。
また、アクリル絵の具の透き通るような色面と、油絵の具の盛り上がりからくる深みのある光沢の違いも、画面上に流れを生んでいて心地よいです。
絵画作品③:ポートレートであり、遠い自画像でもある作品
人物の在り様を探るように描かれたポートレート作品。
肖像が重なって描かれているのが印象的で、人の持つ不確かな一面が豊かな色彩で描き出されているようです。
城愛音さんにとって自画像にはこんな意味もあるそうです。
人間の”顔”に真正面から向き合うことは、自身の現状をうつし出す鏡のようなものであると考える。人物の在り様を探った筆跡の集積は、まるで自身を描いたかのような「遠い自画像」となる。
城愛音statementより引用
その人らしさという感覚的な要素を城愛音さんらしい色彩表現に変換することで、自身にとっての遠い自画像も感じさせるのかもしれません。
ちなみに、夏っぽさを感じる青と黄を基調とした作品はドローイングも展示していて、実際の制作過程を観れるのも興味深いです。
絵画作品④:紙に描いた物腰柔らかな印象の新作
さらに時計回りに作品を観ていくと、城愛音さんにとって初の試みという紙に描いた作品があります。
周囲には植物のような模様が描かれていて、まるで木陰で昼寝をしているようです。
その人にとって安らげる、輝きを放つ瞬間を捉えているように感じられます。
紙はキャンバスと違って、絵の具を吸収して後戻りできない素材。
アクリル絵の具の一方通行な筆致が透明な時間を捉えようとした痕跡のようにも映ります。
そして、オイルパステル、色鉛筆などを用いたグラデーションに作家の特徴を色濃く感じつつも、キャンバス作品とは違う質感に、物腰の柔らかさがありました。
絵画作品⑤:目には見えない「透明な時間」という表現の意味
小柄な作品は面積が少ない分、作家の世界観が凝縮されている印象があります。
《透明な時間(transparent time)》というタイトルの作品はそのひとつで、色の集積がコンパクトながら目に残る存在感がありました。
画面上には色がついているのに透明と表現しているところに不思議な印象を受けますが、温度感や感覚的な雰囲気といった、視覚情報以上の記録を込めているから、目には見えない「透明な時間」と表現しているのかもしれません。
まとめ:視覚で捉えきれない情報を色彩で表現
城愛音さんの作品には、グラデーションとそこに立ち上がる情景の心地よさがあります。
色と色の重なりが生む物語は目には映らないものも色に変換して描き出しているようで、草花の香りや季節の温もりを感じた時の穏やかな感覚に似たものを、作品から受け取れます。
そして、色彩のグラデーションが日々感じる物事の移ろいと重なっているように映る点も印象に残りました。
今回の展示にもあった新たな試み含め、今後の制作にも注目です。
城愛音「透明な時間」個展情報
展覧会名 | 透明な時間 |
会期 | 2023年11月3日(金)- 11月22日(水) |
開廊時間 | 13:00 – 19:00 |
定休日 | 月・火(11月21日(火)は開廊) |
サイト | https://takusometani.com/2023/10/14/城愛音-個展「透明な時間」/ |
観覧料 | 無料 |
作家情報 | 城愛音さん|Instagram:@aiue_joe |
会場 | TAKU SOMETANI GALLERY(Instagram:@taku_sometani_gallery) 東京都渋谷区神宮前2-10-1 サンデシカビル 1F |