【グループ展レポート】「twilight orbs」|直感的な好みの作品が塗り潰す論理的な正しさ
人間はどこまでも好きのために生きていい。
キャラクターを描いた作品が多い中で具象画が現れたり、壁以外の場所に作品を配置していたりと、一見まとまりのない空間にある共通点が「直感的な好み」。
直感は人類の歴史上で生き延びる確率を上げてきた判断機構で、論理的に導き出す正しさを時に超える威力があります。
そんな直感から選ばれた展覧会を観てきました。
今回は宝町の美術紫水にて開催した作家11人(ペロンミさん、大谷尚哉さん、はれの日は憂鬱さん、安藤万実さん、げこるさん、風花さん、なぁ?さん、一瀬あるさん、4畳さん、「」さん、mitsuki oboroさん)のグループ展「twilight orbs」をレポートしていきます。
グループ展「twilight orbs」とは
twilight orbsの意味は「黄昏の天体」。
七夕の時期に、3日間開催されたグループ展です。
参加作家はキャリア、国内外問わず、ギャラリースペース・美術紫水(びじゅつしすい)の運営者であり、作家でもあるmitsuki oboro(みつき おぼろ)さんがキュレーションしています。
キュレーション作品においては直感的なものと理論重視のものとで完全に区別しており、直感的なキュレーションでは《twilight orbs》などインスタレーション要素を取り入れた純粋可視性を尊重している。
画風ではなく直感による好きが集まった場で、自分の目がどう反応するのかを味わえる空間となっていました。
「twilight orbs」展示作品をご紹介
展示は合計11名の作家が制作した絵画やドローイング、イラストを中心とした展示空間となっています。
キャラクターを描いた多義的な作品
会場に入ると、入口と展示会場を区切るように配置されたペロンミさんの作品が現れます。
ペロンミさんは1987年生まれ、宮城県出身の作家です。
2020年8月頃からSNS上で絵を発表し始めた後にギャラリーから声がかかり、作家活動をスタートした経歴を持っています。
キャラクターを表現する最小単位で描かれていながら、作家の独自性を認識できる線が印象的。
漫画の2コマを想起させる配置は、展示という物語の始まりを告げているようでもあります。
そこから四畳(よんじょう)さんとなぁ?(直朱)さんの作品が続きます。
四畳さん、なぁ?さんの作品を観ていくと、一言にキャラクターを描いた作品といっても、作家によってキャラクターの捉え方に多義的な意味合いが込められていることが見て取れます。
どちらも情報量の多い印象が共通する中で、四畳さんの作品は色使いやキャラが穏やかに配置され漠然とした要素があるところに、緩やかに密度の高い情報が伝わってきます。
なぁ?さんはGEISAI#21にも出展されていた作家で、文化学院で主に油絵を学んだ経歴を持ちます。
作品はキャラクターの主役感が明確で、周縁には読めない文字に布や小物のコラージュも観て取れ、キャラの世界観と現実世界の間をつなげて描いているようです。
それぞれ作品発表を場はSNSでもしていることから、アカウント自体が放つ世界観もヒントに読み解いたら、キャラクターに対する意味合いを深掘りするヒントになるかもしれません。
次にあるのが、安藤万実(あんどう まみ)さんの作品。
武蔵野美術大学造形学部油絵学科油絵専攻を卒業している安藤万実さんは、「さみしさの形を追うこと」を意識してキャラクターを描いています。
色を絞り、少ない線で描かれた絵画には、キャラクターを通した感情が描き出されています。
表面上は孤独や虚しさといった感情を受けながら、身の周りにあるちょっとした出来事に触れた時の優しさの感情も共存しているように受け取れます。
そして、安藤万実さんの隣にあるのが、一瀬あるさんの作品。
キャラクターが霞んで見える絵画はロウソクを使っているそうで、実験的な表現が取り入れられています。
雲が青空に溶けていくように、絵画を通してキャラクターの世界観が鑑賞者に溶け込んでいくための試行がなされているように感じます。
感情や世界観など、作品によって想起されるものが異なり、そこに個々の独自性が表れているようです。
具象画が意識させる生物と無生物の間
続く展示には、これまでキャラクターをモチーフにした絵画が主だった中で、大谷尚哉(おおたに なおや)さんによる具象画が目を惹きます。
大谷尚哉さんは1990年生まれ、山形県出身の作家で、2014年に東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻を卒業しています。
「分からない具象画」というテーマで作品を制作しており、今回の作品は変な物体を観察しながら描いたといいます。
具体的に定義ではない物体は無機質でありながら、得体の知れなさから「生きているかも知れない」と感じる側面もあり、その状態がキャラクターに共通しているように思えます。
キャラクターをモチーフに描いた作品が多い展示という点では違和感がありますが、それが「画風ではなく直感による純粋な好きが集まった場」であることを強調しているようです。
次にあるはれの日は憂鬱さん、風花さんの作品からも、大谷尚哉さんの作品のような生物と無生物の間にいる存在を意識させます。
はれの日は憂鬱さんは1996年生まれ、茨城県出身。
2023年より作家活動を開始し、「事実の残酷さ」をテーマとした作品制作に取り組んでいます。
魔法少女が逆境に置かれたイメージで、生死の境にいる状態が生む残酷さを浮き彫りにしているようです。
風花さんの作品は雨の日の水溜りに映る自分自身を眺めているようで、暗い印象を与える配色に加え血を想起させる赤が、生命力の消失を感じさせます。
作品の配置によってそれぞれのキャラクターの表情が変わって見えるのは、作品自体が持つものに加えて、展示空間が生む効果があるように思います。
作品との身近な距離感を生むインスタレーション
展示空間に目を向けると、壁に掛けるだけでなく、テーブルの上や吊り下げ、床、椅子に作品が置かれています。
机の上には「」さんのドローイングが。
おそらく同一人物が異なる画風で描かれていて、キャラクターの中にある複数の性格や姿を映し出していようです。
そんな「」さんの作品と呼応するように、今回の展覧会をキュレーションしたmitsuki oboro(ミツキ オボロ)さんによる割れたティーカップを針金で修復した作品が置かれています。
一度割れたものを針金で修復するところに、不完全さへの肯定が表れているようでした。
そして、げこるさんの作品は七夕の短冊のよう吊り下げられています。
げこるさんもGEISAI#21に出展していた作家で、猫耳の少女をモチーフとした作品が特徴的です。
大きなドローイングには目視できるだけでも6人の少女が描かれていて、紙の上を超えて展示空間をキャラクターで塗り潰していく勢いを感じます。
この作品が会場の中央に吊り下げられていることで、作品の持つ勢いが効果的に空間全体に波及しているようです。
作品というよりは友人として、身近な距離感を生んでいる展覧会でした。
まとめ:人間はどこまでも好きのために生きていい
直感による純粋な好きが集まる空間に浸り感じたのは、人間はどこまでも好きのために生きていいということです。
当然、誰かにとっての好きが自分にとっての好きにすべて当てはまるということはなく、私自身も今回の展示で好みの違いがあります。
それでも、純粋な好きを包み隠さず公開することで生まれる共振に、社会の目を気にせず突き通す欲望をどこかに持っておいても良いと言われたようでした。
自分の中で共振した作品は年代や技術、経歴といったカテゴリだけでは判断できない魅力があります。
同時に、好きが故の排他的な態度に陥らないように、不完全さの肯定も大切だと感じる展覧会でした。
グループ展「twilight orbs」展覧会情報
展覧会名 | 「twilight orbs」 |
会期 | 2024年7月5日(金) – 7月7日(日) |
開廊時間 | 12:00 – 18:00 |
定休日 | 月・火・水・木 |
サイト | https://shisui-tea.jp/blogs/exhibition/exhibition-twilight-orbs |
観覧料 | 無料 |
作家情報 | ペロンミさん|Instagram:@pelonmi_/X:@pelonmi_ 大谷尚哉さん|X:@aka_nuc はれの日は憂鬱さん|Instagram:@u.g.il/X:@hhy_error 安藤万実さん|Instagram:@amamilliea/X:@amamicol げこるさん|Instagram:@gekooru/X:@gekoruna 風花さん|Instagram:@o0yasum1/X:@1i_0o_ なぁ?(直朱)さん|X:@tanaka56207767 一瀬あるさん|Instagram:@ll010010100/X:@ll010010100 4畳さん|X:@uga_tte 「」さん|X:@Null_KUUHAKU__ mitsuki oboroさん|Instagram:@mitsuki_oboro/X:@mitsuki_oboro |
会場 | 美術紫水(Instagram:@bijutsushisui) 東京都中央区銀座1-15-7 2F |
参考
- 「A Nightmare Is A Dream Come True:Anime Expressionist Painting(2012)」キュレーター村上隆によるステートメント|Kaikai Kiki Gallery
- 「A Nightmare Is A Dream Come True:Anime Expressionist Painting(2012)」参加作家による座談会|Kaikai Kiki Gallery
- カオス*ラウンジからキャラクターまで、ひとりの画家が求める「ポップ」の本当。藤城嘘インタビュー(2018)|美術手帖