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「写真向後」鑑賞レポート|写真はこの先どこへ向かうのか

よしてる
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スマートフォンで誰もが写真を撮る時代に、「写真とは何か」を問い直す展覧会へ行ってきました。

書き手:よしてる
1993年生まれの会社員。2021年2月からオウンドメディア「アート数奇」を運営。東京を拠点に「アートの割り切れない楽しさ」を言語化した展覧会レビューや美術家インタビュー、作品購入方法、飾り方に関する記事を200以上掲載。2021年に初めてアートを購入(2025年6月時点でコレクションは30点ほど)。

蔵前駅のすぐ近く、iwao galleryへ

都営浅草線・蔵前駅から徒歩1分。
細い階段を上った2階に、iwao galleryがあります。

iwao gallery 外観。グレーの外壁と黒い看板が目印

外から見ると看板は小さく、通り過ぎてしまいそうな佇まい。
でも、その控えめさが蔵前という街に馴染んでいます。

展覧会「写真向後」とは?

「向後(こうご)」とは「これから先」を意味する言葉です。

東京藝術大学美術学部には、独立した写真学科・写真専攻は存在しません。
それでも同大学には「写真センター」という共同制作施設があり、写真表現の教育・研究・発信を担っているそうです。
本展はそのセンターに所属する4名の作家─鈴木理策、赤石隆明、チバガク、高田有輝によるグループ展です。

会場全体。左手前に高田有輝の作品群、左手前にチバガクの作品群、奥には鈴木理策の作品が並ぶ

スマートフォンの普及で、写真を撮る行為は一層特別なものではなくなりました。
作品の形態もプリントにとどまらず、インスタレーションや空間展示へと広がっています。
そのため、「写真とは何か」という問いは、以前よりずっと複雑になっている気がします。

4人の作家はそれぞれのアプローチから、写真のこれからを考える機会を作り出していました。

鈴木理策─火をキャンバスに写す

会場に入ると、鈴木理策の作品が大きな窓を挟んで3点の作品が向かい合っています。

窓を挟んで3点が向き合う
激しく燃える炎を捉えている

パッと見た印象では絵画が飾られていると感じますが、近づいてみるとキャンバスの地に直接プリントされた写真であることに気づきます。

奉納や家内安全と書かれた棒がお焚き上げの火の中へ差し込まれるような場面のようで、特に、右の作品は放射状に集まる棒が炎のもとへ向かい、エネルギーを集めているようです。

火による浄化と消滅の循環が、消えることのない問いの姿を映し出しているようでした。

チバガク─「きっかけ」を探して風景を削る

壁に並ぶ4点の写真は、東京のどこかにあるような住宅街の風景。
建物、フェンス、植栽、道路など、何の変哲もない場面に見えます。

チバガクの作品群。一見ふつうの都市風景だが、それぞれ微妙な処理が施されている

ところが近づいてよく見ると、風景が削られているような痕跡があることに気づきます。

作家のコメントを読むと、その意図が見えてきます。

シャッターを切る「きっかけ」の要素が確かにあったはずなのに、写っている風景はなんて事のないただの風景だ

撮影後に記録された風景を再構成しているようで、風景そのものへの注意をそらすことで、「なぜここでシャッターを切ったのか」という問いを浮かび上がらせているようです。

スマートフォンで写真を撮るとき、「気になって撮ったけど、見返したら何が撮りたかったのかわからない」という経験は、誰にでもあるはず。
チバガクの作品はその「わからなさ」を解決するのではなく、そこに意識的に向き合うための問いを投げかけているように映ります。

赤石隆明・高田有輝─写真の境界線をずらす試み

赤石隆明の作品はどこか彫刻的で、ざらっとした手触り感があります。

赤石隆明の作品。一見すると何を捉えた写真か分からないものも

作家のコメントには、

コロナ禍の折、作品を庭に埋めた。
家の庭に縦穴を3mほど掘って埋めた。作品というのも円錐形に近いクッションのようなものだ。(中略)仕事終わりに投光器を頼りに穴を掘り、行き場のなくなった作品を埋める。頃合いを見て掘り起こしては泥を払って洗い、また埋め直す。洗濯することで、泥にまみれて形を変え輝いて見えた。

とあり、そうした手を動かすことで生まれる感覚を、写真を通して伝えているようです。

赤石隆明の作品

高田有輝の作品は、会場の一角の壁を埋め尽くすように展示されています。
通常はインクを通じて画像を大量複製するシルクスクリーンを、手作業の痕跡を残す技法を取り入れることで「複製できないイメージ」を生み出しているそうです。

高田有輝の作品群。シルクスクリーンの版に感光乳剤を塗布・露光した作品が壁を埋め尽くす

青、赤、黒の抽象的なイメージ、笑顔の人物の顔、鳥の横顔など、バラバラなモチーフが並んでいるようで、どこからが複製できないイメージたりうるかの実験過程のようでもあります。

大量複製のための技術で、複製できないものを作る。
この逆説が、写真というメディアを根本から問い直しているようでした。

まとめ

展示を後にして、何気なくスマホで街を撮影してみました。

ギャラリーを出て最初に撮った写真、ソフトクリームにカヌレが突き刺さるオブジェが印象的

この写真を撮った時、どんなきっかけでスマートフォンを取り出して撮ろうとしていたかに目を向けている自分がいました。

私自身、作家が伝えるメッセージを受け取りきれていない自覚を持ちながらも、「写真向後」は写真を撮ることが日常になった時代に、撮る行為の本質を問い直すための場所になっていました。

その問いは、会場を出た後もじわじわと効いてくる展覧会でした。

展覧会情報

展覧会名写真向後(しゃしんこうご)
会期2026年4月9日(木)〜26日(日)
開館時間[木・金]13:00〜19:00 [土・日]12:00〜17:00
休廊日月・火・水
サイトhttps://iwaogallery.jp/202604-2/
入館料無料
作家情報鈴木理策(Instagram:@risakusuzuki
赤石隆明(Instagram:@takaakiakaishi
チバガク(Instagram:@chibagaku_works
高田有輝
会場iwao gallery(Instagram:@iwao_gallery
東京都台東区蔵前2-1-27 2F
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よしてる
1993年生まれの会社員。2021年2月からオウンドメディア「アート数奇」を運営。東京を拠点に「アートの割り切れない楽しさ」を言語化した展覧会レビューや美術家インタビュー、作品購入方法、飾り方に関する記事を200以上掲載。2021年に初めてアートを購入(2025年6月時点でコレクションは30点ほど)。2025年8月からYouTube「美術どうでしょう」始動。
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