FACE「NORTRAIT」|特徴的な笑みのキャラクターにシュルレアリスムの趣を感じるアート
今回は六本木にあるROPPOMGI HILLS A/D GALLERYにて開催したFACEさんの個展「NORTRAIT」の模様をご紹介します。
この記事を読むとこんなことが分かります。
- FACE(フェイス)さんとその作品のテーマについて分かる。
- 個展タイトル「NORTRAIT」に込められた意味が分かる。
- FACEさんの作品と美術史上の作品との関連性からアートを楽しむ一例を知れる。
今回の個展は60号(130.3 × 97cm)と大型の作品が展示された、迫力のある内容となっていました。また、今回は作品鑑賞を通して感じた、ルネ・マグリットの「シュルレアリスム」の関連性についても考察してみました。
FACEとは?
FACE(フェイス)さんは、台湾人の父と日本人の母を持つ、東京都生まれのアーティストです。専門的に絵の勉強をしたわけではなく、小学校の頃は少年ジャンプの黄金期で、ドラゴンボールや幽☆遊☆白書、SLAM DUNKなどのキャラクターを模写をしたり、落書きをし続けていました。
大人になってからもいつか絵の道に進みたいと思っていたそうで、転機になったのは30歳くらいの頃にInstagramに友人とイラストをアップしていた時に、雑誌の編集部からイラストのオファーがきたことでした。
そこから注文されたイラストを描きつつ、徐々に仕事の幅が広がり、今ではアパレル、広告、雑誌を中心に、国内外問わずグローバルにクライアントワークをこなしています。
作品提供をした一例は以下のとおりで、中には名前を聞いたことがあるものもあるのではないでしょうか。
HUMAN MADE®︎、adidas、Better、SNEEZE magazine、Richardson magazine、ISETAN、BEAMS、Foot Patrol、Disney、GOODHOOD
作品に登場する「同じ顔をして笑っている」顔
FACEさんの作品中には頻繁に、福笑いのように目と口がいろんな配置になっている顔が登場します。
ポップで可愛らしい顔ですが、描かれている表情は笑っているのか、それとも笑っていないのか、単調な顔に絶妙なニュアンスが含まれています。これらの目と口を使った作品には、「平和ボケした日本人」というテーマが潜んでいます。
その背景には、アメリカ史上最悪の自爆テロ攻撃といわれている9.11があります。110階もあった高層ビルが1日で何もない場所に変貌し、跡地が広島の原爆爆心地を連想させることから、「グランド・ゼロ」と名付けられました。このグランド・ゼロを見て、FACEさんは「日本人はあまりに危機意識がなさすぎるんじゃないか」と感じたそうです。
たとえ銃を突きつけられたとてもニコニコしているかもしれない日本人への皮肉が、ひとつの作品制作の要素となっています。
前回個展:Gallery Targetでの「Taking Peace for Granted」
2021年には神宮前にあるGALLERY TARGETにて個展を開催し、アーティストとして本格的な制作活動に取り組まれています。個展タイトル「Taking Peace for Granted」には平和ボケという意味が含まれていて、強いメッセージを含んだ展覧会となっていました。
前回個展の模様については、こちらをご覧ください。
「NORTRAIT」のコンセプト
今回の個展タイトルとなっている言葉「NORTRAIT」とは、「NO ONE(誰でもない)」+「PORTRAIT(人物)」を掛け合わせた造語となっています。描かれているポートレイトは特定の誰かではなく、見た人が思い浮かんだ人物こそが答えなのだそうです。
ここに描かれているポートレートは誰かであって誰かではない。
ーFACEさんコメントより引用
添えられた装飾も意味があるのかもしれないが、意味がないのかもしれない。
固定概念の先に創造はない。
ただ一つ確かなことは僕は”人”を描くのが好きだ。
自分が感じたことのままに想像力を発揮してみてはどうだろうかと、問いかけられているような個展タイトルです。
個展「NORTRAIT」を鑑賞
それでは、展示作品からいくつかピックアップして観ていきましょう!
ブログで炎上する人:固定概念を外すための練習問題
今回の展覧会の入口手前に展示している作品。上部には猫と犬の横顔と、ぐるぐると塗られた跡が、下部には青色を背景にした金髪の人が描かれています。
どこかやんちゃそうな表情をしている一方で、タイトルには炎上という文字が。落書きのような猫と犬のイラストが原因なのか、ひょんな表現が思わぬ批判につながったのか、それとも、それぞれ独立した言葉やイラストで無関係なものの集合なのか。
入口手前から「どう捉えていいのか」と、固定概念を外すための練習問題を解いているような感覚になる作品です。
一人で山登る人:自分に見える顔
12点ほどある展示作品の中でも、個人的にはこちらの作品が印象に残りました。
この作品を観ていて、ふと登山をしていた時の自分の表情を思い出していました。その登山というのが少々トリッキーで、当時何を思ったか、草鞋を履いて登山をしてみたいと思い実行に移していました。
ところが、当日になってみると天気は大雨、コンディションは最悪の中の登山となり、一時はこんな感じの不機嫌そうな顔をしていました。ただ、それを超えた後の達成感が印象に残っていて、そんな記憶をセットで思い出したのでした。険しい顔も好きだなと気づける作品でした。
年齢不詳な人:笑顔に潜む不気味さを感じる作品
耳当て付きの帽子をかぶった人と、その下にはエンジンスタート(?)で鍵を入れている様子が描かれています。まるで、狩猟に出かけるときのように見えます。
さらにタイトルを見ると「年齢不詳な人」となっていて、テレビニュースのような事件性を感じるワードが添えられています。人物の影が他の作品と比較して長く伸びているところからも、笑顔に潜む不気味さが強調されているようにも見えます。
「シュルレアリスム」の趣を感じる展示作品
ここまで観てきたように、今回の作品は2つの場面が一枚のキャンバスに描かれていました。
関連性があるようで、実は関係ないかもという構成から、理性の支配の及ばない無意識の世界に「超現実」という新たなリアリティを追い求める「シュルレアリスム」の趣を感じました。
こういった構成で似ているなと感じたのが、ルネ・マグリットの《自由の戸口で》です。マグリットは「意識的思考がアイディアにつながるとして、アイディアこそ絵画において大事なもの」だと考えていました。《自由の戸口で》の中で表現されている同じ大きさの8枚の壁板モチーフは、どれも1929年以前のマグリット自身の作品から採られた主題、デザインになっています。
またマグリットは、《夢の解釈》という描いたものの下に間違った説明を入れた作品も制作していて、そういった描いたものと名前の果たす役割を強調した表現からも、ルネ・マグリットの要素をFACEさんの表現で再構築しているようだなと感じました。
《イメージの裏切り(これはパイプではない)[英:The Treachery of Images(This is Not a Pipe)]》
ルネ・マグリット(René Magritte/Belgium,1898-1967)、1929、Oil on canvas、63.5 × 93.98cm、ロサンゼルス・カウンティ美術館蔵
まとめ:美術史と重ねて作品鑑賞をする楽しさ
FACEさんの個展「NORTRAIT」の作品を観ていきました。FACEさん作品独特な顔の表情から、さまざまな想像を膨らますことができました。
今回のように、自分の今持つ知識の範囲で「この作風って、美術史の中のあの作品と似ているな」と紐づけながら作品鑑賞ができると、解釈に幅が生まれてワクワクする感覚がありました。
その解釈が必ずしも正解とはなりませんが、想像をしながら固定概念を外していくのも楽しみ方の一つかなと思います。自分なりの楽しみ方を発見するきっかけになれたら嬉しいです。
展示会情報
展覧会名 | NORTRAIT |
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会場 | ROPPOMGI HILLS A/D GALLERY 東京都港区六本木6丁目10−1 六本木ヒルズウェストウォーク3階(六本木ヒルズ アート&デザインストア内) |
会期 | 2021年8月27日(金)~9月12日(日) |
開廊時間 | 12:00~20:00 |
サイト | https://art-view.roppongihills.com/jp/shop/adgallery/face/ |
観覧料 | 無料 |
作家情報 | FACEさん|Instagram:@face_oka |