「みなとコモンズ」が繋ぐ緩やかな関係性|キュンチョメの常設展示と一息つける共有スペースを紹介
東京・三田にできた一息つける共有スペース「みなとコモンズ」。
旧図書館を活用し生まれたスペースは誰もが無料で一息ついたり、新しいことに挑戦したり、時には緩やかな関係性を紡ぐ、実験的な空間となっています。
そして地下には、アートユニット・キュンチョメによるアート作品の常設展示も。
海中を映した映像作品にはあらゆる情報を削ぎ落とした時間が流れていて、海の青色の美しさと同時に、言葉が役割を終えて生命の循環に還っていくような光景が広がっています。
今回はそんなキュンチョメ常設展示「呼吸をさがす部屋」を中心に、誰でも利用可能な実験的スペース「みなとコモンズ」を紹介します。
みなとコモンズとは?
みなとコモンズとはNPO法人芸術公社が運営する、旧三田図書館を活用した誰でも利用可能な実験的スペースです。
2027年に浜松町駅に開館予定の「港区立みなと芸術センター」整備に向けたプレ事業で、港区が掲げる共生社会の実現に向けた、さまざまなイベントや企画を試験的に開催しています。
「砂浜」をコンセプトにした一息つける居場所
みなとコモンズは様々な文化や価値観が波となって打ち寄せる「砂浜」をテーマにした設計がされています。
現在は3階で受付を済ませれば、
- 3階の実験的スペース「砂浜:海をみつける広場」
- 地下1階のキュンチョメ常設展示「深海:呼吸をさがす部屋」
が利用できます。
キュンチョメの作品展示「呼吸をさがす部屋」
エレベーターで地下1階に向かった先にあるのが、アーティストユニット・キュンチョメによる常設展示「呼吸をさがす部屋」です。
展示空間にはリクライニングチェアが置かれ、ひとり時間を過ごせる休憩所にもなっています。
キュンチョメとは?
キュンチョメとは、2011年の東日本大震災を契機に結成した、ホンマエリさんとナブチさんによるアートユニットです。
制作行為を「新しい祈り」と捉え、社会問題や自然災害、そこに関わる人々と向き合い、複雑に絡まる感情や交錯する意見を反映させた、詩的でユーモラスな作品を発表しています。
この「新しい祈り」には、キュンチョメが考える「人類の先祖が死者に花を添える“祈り”を始めてからアートが始まったのではないか」の仮説があり、祈りの形をアップデートするように作品制作をしています。
直近では公立美術館での初個展「魂の色は青」(2023、黒部市美術館)を開催し、そこで発表した作品をみなとコモンズに展示しています。
「あるがままの自分」を再発見する展示作品
展示は社会の情報を遮断し、ただ時間だけが流れているような空間で、「あるがままの自分」を再発見できるような場所になっています。
海辺から水面、水中、深海へと潜っていくような作品構成
エレベーターの扉が開くと、暗い通路の先から砂浜を撫でる波の音や、ダイビングの呼吸音が聞こえてきます。
「呼吸」をテーマにした展示空間には、映像を中心とした4つの作品があります。
海辺、水面、水中、そして深海を舞台とした作品からは、徐々に海の中へ入っていくような感覚を味わえます。
「対話を必要としない繋がり」との出会い
まずは海辺にあたる《ヘソに合う石》です。
海辺に寝転びながら探した、キュンチョメ・ホンマエリさんのヘソにピッタリ合う石の展示。
ヘソは母親と繋がっていた緒を切ってできるもので、ある意味「産まれて初めて孤独になったときの痕跡」です。
そんなヘソを無生物でまったくの他者である石が埋めてくれる。
見た目は単なる小さな石ですが、ヘソと石のつながりを通して大地、そして地球へとリンクしていることを想像すると、孤独ではない幸せがじわじわと湧いてきます。
そこには、対話を必要としない繋がりが生まれているようです。
水面にあたる《ためいきでうかぶ》にも、その繋がりが生まれているように感じます。
「ため息」を吹き込んだ風船を抱えて、左から右へ海に浮かぶ姿を捉えた映像作品。
ネガティブの象徴であるため息をもったいないと思い、風船の中に溜める発想から生まれたそうです。
そんな風船を持って海に浮かぶことで身体を支える存在になり、ため息がポジティブなものに変換されています。
その時に感じる言葉にしがたい豊かさは、感動で漏れ出るポジティブなため息へと変換されていそうです。
そうした感情も、海を背にして浮かぶ繋がりがあるから得られるのかもしれません。
自分の呼吸を再発見する
ここから舞台は海の中、《金魚と海を渡る》に入っていきます。
金魚と共に海を泳いで渡る映像作品。
金魚といえば、自然界では生きていけない、人の手で生まれた日本最古のペット。
人も自然界では生存できず、整備された環境でしか生きていけない点で金魚と似ています。
そんな二人で海を泳いで渡る映像作品から「できないこともない」ことに気づかされます。
金魚は袋から出れない、人はシュノーケルが必要な制限はありますが、旅による「誰かの支えがあってできる発見」が神秘的な体験を生んでいるようです。
そして、研ぎ澄まされた神秘性を感じるのが《海の中に祈りを溶かす》です。
祈りの言葉を口にしながら潜水する姿を捉えた映像作品。
一面が青の水中でひたすら響く呼吸音「スゥー」「ボコボコォ」に聴覚が刺激され、自然と自分の呼吸音に耳を傾けられていきます。
すると、自分の呼吸の浅さや早さに気づく人が多いはず。
情報が削ぎ落とされた空間だからこそ「自分の呼吸を再発見」できます。
今はタイパ(タイムパフォーマンス)が重視され、注意力こそが資源といわれる時代です。
人間の注意力の総量が限られている中で、できるだけ多くの人の目を、商品やサービスに釘付けにするため、あらゆる手段で情報が流れ込んできます。
そんな時代だからこそ、海中のような情報が制限される場所が必要で、生きる上で絶対に必要な「呼吸」に時間を使うことが、この時代に足りないものを補ってくれるのかもしれません。
「泡」が見せる、言葉が役割を終え生命の循環に還っていく瞬間
ちなみに、個人的な作品の見どころは「泡」です。
泡の中には、沈みながら祈っていた時に唱えた、
「死なないで」
「幸せでいて」
「海が青いままでありますように」
といった言葉が含まれているそうです。
泡が海に溶けていく様子は、言葉が役割を終え、生命の循環に還っていくような光景でした。
ここにはリクライニングチェアがあります。
ぜひ寝そべりながら、時間を忘れて深呼吸するのがおすすめです。
みなとコモンズの都会の砂浜「海を見つける広場」
みなとコモンズの3階にあるのが「砂浜」をイメージしたカーペットのある、新しい居場所のあり方を考える実験的スペースです。
寝転がれる砂浜以外に机と椅子もあり、独自のペースやスタイルで過ごせる空間となっています。
特徴的なのが「暗黙のルールを強いる公共空間の規範を見直しながら、誰もが自由に過ごせる環境」を目指していること。
利用者それぞれの活動を歓迎・尊重し合いながら、子供も大人も、誰もが自分の思いのままに過ごせる空間を志向しています。
例えば、ランチ利用やリモートワーク、放課後の寄り道など、近隣にいる人を中心に様々な用途で足を運びやすい場所になっています。
他にも、みなとコモンズの使い方や企画などについて誰でも気軽に参加し話せる「コモニング・ミーティング」を定期開催しているのも特徴的。
その中で決まったものが実現しているものもあり、例えば、
- 物々交換ができるシェアリングコーナー
- 書籍観覧コーナー
- 目安箱や自由に書き込めるノートの設置
などがありました。
個人がよく吟味し、良い選択をするためのゆるやかな関係性のコミュニティを醸成しているようでした。
まとめ:みなとコモンズで緩やかな関係性を楽しもう
みなとコモンズは、砂浜を想起させる空間でボーッとしたり、何かに熱中したり、新たな出会いを楽しんだり、時には地下の作品展示空間に潜ったりもできる共有スペースとなっています。
みなとコモンズに実際に足を運んでみて、緩やかな関係性を楽しんでみてください。
みなとコモンズ概要
施設名 | みなとコモンズ |
会館日 | 木、金、土、日 ※開館時間の変更や臨時休館の可能性あり。 最新情報は芸術公社公式サイトや公式SNSをご確認ください。 |
会館時間 | 11:00 – 17:00 ※入館は閉館の30分前まで |
定休日 | 月、火、水 |
入館料 | 無料 |
サイト | https://artscommons.asia/projects/みなとコモンズ/ |
SNS | X| @minatocommons Instagram| @minato.commons facebook|みなとコモンズ Tumblr| minatocommons |
常設展示 | 「呼吸をさがす部屋」 展示作家:キュンチョメ|Instagram:@kyunchome 観覧料:無料 期間:2024年10月12日(土) – 2025年3月31日(月) |
場所 | 〒108-0014 東京都港区芝5-28-4(旧三田図書館) |