【後編】初めてのアートコレクションをする方法(作品・所有編)
前回に続き、アート作品のコレクションを始める前に知っておきたい作品編~アート作品をコレクション後に知りたい所有編をQ&A形式でご紹介します。
この記事では美術手帖が特別編集した小冊子「The Beginner’sGuide to Collecting Art」を参考にまとめています。アートコレクションをしていく上で浮かぶ疑問が簡潔にまとめられていたので、実際にコレクションをした経験も交えてご紹介していきます。
作品編:購入する前に知りたいこと
疑問1:作品の価格はどう決まっているの?
作品の価格がどう決まっているのかは、プライマリーマーケットとセカンダリーマーケットとを分けて考えていくと分かりやすいです。
プライマリーマーケット
プライマリーマーケット(ギャラリーやアートフェア)については、一度価格が決まれば定価として国際的に統一されます。値付けには以下にあるようなことを考慮して、ギャラリーと作家により慎重に決定されます。
- 絵画であれば作品の号数(基本的に新作はこれで価格が決まります)
- 作家の評判や展覧会歴、販売状況
- 彫刻であれば用いている素材
- ギャラリーの影響力
- オークション価格の動向(何点がいくらで落札されたか全体を考慮)
また、アート作品は一度上げた価格を基本的には下げられないという特性があります。そういった意味でも、価格を上げる際には慎重な判断がなされます。例えば、作品サイズに対しての価格が高い場合には、どのような点が評価されてこの価格となっているのかチェックしてみると良いでしょう。
セカンダリーマーケット
セカンダリーマーケット(オークションなど)については、作品が欲しい人が2人以上いれば「資金のある限り」競り合いが続くため、トレンドやマーケットの状況によって価格は変動します。資金という制約があれど、誰でも参加ができる意味で公共性が担保されています。
オークションを通して、アーティストと作品が今この時代にどう評価されているのかを数値的に知ることができるため、国内外のアートオークションの情報もチェックしてみるのも視野が広がります。
疑問2:作品を買う前に作家について調べた方がいいの?
気になる作品が見つかったら、購入に至るまでにいくつかの方法があります。
- 直感を大切にして判断する
- 作家の情報も収集した上で判断する
初めての作品購入は特に、自分の好きと感じた気持ちを大切にして、自分で判断し購入を決めるのが、後々後悔しないと思います。その上で、作家のことをネットで調べたり、個展の会期中であれば作家と直接話してみたり、取り扱いギャラリーに作品データや活動履歴など詳しい情報を聞いてみると良い判断材料になってくれます。
これまでの作品制作の過程や、アート界の評価、今後の予定などの情報はギャラリーでまとめているので、短時間で効率的に情報収集ができます。
ただ、情報をたくさん集めれば購入する判断がしやすくなるかというとそういうわけでもありません。検討に時間をかけすぎると、他のコレクターに先を越され購入できなくなる場合もあります。余計な情報を入れすぎずに、最初に感じた「好き」という気持ちを大切に、程よく作家のことも知って検討してみましょう。
疑問3:好きな作品ってどうやって探してるの?
初めて作品を探す場所におすすめなのが「アートフェア」です。ギャラリーは独特の緊張感があるところがある一方で、アートフェアはお祭りのような雰囲気なので、初心者でも入りやすいです。日本の代表的なアートフェアとしては、アートフェア東京があります。アートフェア東京の雰囲気については以下も参考にしてみてください。
気になる作品ができたら「取り扱いギャラリー」で作家の個展を観にいってみるのもおすすめです。
また、近年はギャラリー巡りをしているアートウォッチャーの方たちがtwitterやInstagram上に鑑賞ログを投稿しています。十人十色のアートの見方が現れていて、「こんな展覧会やってるんだ!」という発見にもつながります。
所有編:コレクション後に気になること
疑問4:額縁はどうやって選べばいいか?
おすすめは、購入時にギャラリーに相談することです。ギャラリーには馴染みの額装専門店がいるので、場合によってはサンプルを見ながら検討できます。また、作家によって特定の額装専門店を決めている場合もあるので、そういった意味でも購入したギャラリーで額装を手配してもらうと安心です。
特に額装の指定がなく「自分で額装を選んでみたい!」という場合には、街の額装専門店を探して、作品を見てもらいながら一緒に選ぶのも良いかもしれません。例えば私の場合は、写真作品を自由が丘にある祝日堂さんへ額装を依頼したことがあります。額の素材からサイズ、マットまで選べるので、自分好みにカスタマイズができます。
ちなみに、作品と長く付き合うという観点からも額装はなるべくすることをおすすめします。
せっかく作品を購入したならば自宅で飾って楽しみたいですが、飾ることによる劣化のリスクもあるので、そういった意味で額装は大切な要素です。
疑問5:作品はどうやって飾ればいいの?
壁に掛けられる作品であれば、「壁にフックで設置する」のが一般的です。フックには対応可能な最大重量があるので、作品の重さに合わせて購入しましょう。
フックは細い釘で止めるタイプから、最近ではホッチキスで止められるタイプまであるので、壁にどこまで穴を開けていいかも考慮して決めましょう。額装作品の壁掛け方法については、こちらも参考にしてください。
フック以外にも壁掛け用品としては「ピクチャーレール」というものもあります。フックは一か所固定に対して、ピクチャーレールはレールの範囲内でフックの位置を変えることができ、高さも自由に変えられるメリットがあります。一方で、作品を掛けるとフックを垂らすワイヤーが見えてしまうデメリットもあるので、景観が気になるという人はフックの方がおすすめです。
また、壁に掛けるタイプではない、彫刻などの作品は、小型作品であればケースに入れて飾ったり、湿気が溜まらないよう風通しが良く直射日光に当たらない場所に飾るのがおすすめです。
疑問6:保存やお手入れはどうすればいいの?
作品は飾るときと保管するときで手入れの仕方を意識すると、長くコンディションを保ちながら作品との時間を楽しむことができます。
「飾る」ときに意識すると良いこと
飾るときには以下の観点を考慮して場所選びするのがおすすめです。
- 飾る位置をエアコンや温風の風下にしない
熱により額装のプラスチックが歪み、作品に付着する可能性があります - 作品に直接太陽光があたらない場所に飾る
太陽の紫外線によって日焼けし、作品が劣化しやすくなります - 可能であれば、蛍光灯のある部屋を避ける
太陽と同じく微量の紫外線を発しているので、長時間飾ると同じく劣化しやすくなります - 作品を置く部屋の湿度を45~55%の範囲内で、60%を超えないようにする
木製は特に、湿気により白い斑点=カビが発生してしまう可能性があります。文部科学省の調査によると、温度25度のとき相対湿度が70%だとカビは数か月で繁殖し、75%を越すとその速度は急激に早まり、90%ではわずか2日で目に見える程度まで繁殖するといわれています。
「保管」するときに意識すると良いこと
保管するときには以下の観点を考慮して保管するのがおすすめです。
- 保管は基本的に納品時に梱包されていた段ボールなどの箱の中にしまう
ほこり積もり防止や、むき出しで保管すると破損するおそれがあるため - 段ボールは湿気が溜まりやすいため、すのこを敷き風通しを良くする
湿気は床に溜まりやすいため - 長くしまい続けると段ボールが吸収した湿気の影響もあるので、可能な限り年に1回以上箱から出して、定期的なコンディションチェックをする
- 押入れは空気の循環がなく湿気が溜まりやすいので、予算が許せば貸倉庫も検討する
24時間空調整備、セキュリティ面の安全性が充実している。一方で災害時の保険は自身で用意するケースが多いので忘れず検討を
ここで挙げたこと以外にも、作品の特性によって必要な管理方法があるかもしれないので、購入時に作家やギャラリーにも保管や手入れの仕方を確認しておくと安心です。
疑問7:もし破損したら、修理はできるの?
不本意ながら作品が破損してしまった場合、自分で無理に直そうとせずにギャラリーに相談するのが賢明です。作品を受け取ったらまずは傷がないかを確認しましょう。例えば、木彫作品の受け取り時に、乾ききっていない木を使ったためにひび割れた場合は、ギャラリーに依頼すれば修復をしてもらえます。
修復費用についても、コラージュ作品の紙が剥がれてきたり、汚れがついてしまった場合、10万円ほどで修復してもらえるケースがあります。また、カビ取りは20万円ほどで修復してもらえることも。
修復依頼先の例としては、修復研究所21などがあります。
また、修復を作家本人がする場合もあれば、修復度合いによっては専門の修復家に請け負ってもらうこともあります。何かあれば焦らずに購入したギャラリーに相談してみましょう。
疑問8:一度購入した作品を手放すときはどうしたらいい?
作品の購入時に特別な契約がなければ、基本的には所有者が自由に売却することができます。特別な契約とは、例えば、「作品購入時、買主は作品納品日より満3年が経過する日までの間、作家を除く第三者に対して、本作品を販売・無償譲渡(寄付を含む)の禁止に同意いただく必要があります。」といったものです。
作品を手放す場合の方法として、例えば以下があげられます。
- 購入元のギャラリーが委託による再販売や買い取り(ギャラリーにより異なります)
- アートオークションなどのセカンダリーマーケットの利用
- 美術館への寄贈(日本は保管場所の問題からかなりレアケースです)
作品を手放すケースとしてよくあるのが、コレクターの死後、コレクションを家族が引き継ぐ場合です。相続税などの影響により所有し続けることが困難となる場合、アート作品は手放されるケースが多いようです。アートが資産となるがためにこういった状況になるため、アメリカでは3つ目の「美術館への寄贈」をすれば税金が控除され、コレクターの名前も後世に残る制度があります。一方の日本ではアメリカのような税制面でのサポートが少ないため、問題視されています。
まとめ:アートコレクションの疑問を解消してアートを楽しもう!
前回に続き、アートコレクションを検討するときに出てくる、アート作品と所有後のよくある疑問をご紹介しました。初めてのコレクションは特に記憶に残るものになります。最初の1ページとなる初コレクションが末永く良いものになれば嬉しいです!
美術手帖ではときたまこういった小冊子をOIL by 美術手帖ギャラリー(渋谷)で無料配布しているときがあます。また、過去の美術手帖も見れるのでアート情報収集にはもってこいです。本記事から「もっとアートのことを知りたい!」と感じた方は、ギャラリーにも足を運んでみてください。
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(参考)アイキャッチ画像:マシュー・デイ・ジャクソン《LIFE To the Moon and Back》、2019