ナカザワショーコ「陰陽向 – カゲヒナタ」|バイロンたちが登場する“陰と陽の世界観”を描いたアート
バイロンをはじめとした可愛らしいフォルムのソフビキャラクターを生み出したナカザワショーコさんにとって、初となるアート作品の個展へ行ってきました。
今回は中野にある「Hidari Zingaro」にて開催したナカザワショーコさんの個展「陰陽向 – カゲヒナタ」の模様をご紹介します。
要点だけ知りたい人へ
まずは要点をピックアップ!
- ナカザワショーコさんは1972年生まれ、東京を拠点に活動している造形作家・アーティストです。
- 作品は人間や幻想的な生き物の創造を通して、退廃的で自然な世界を作り出しています。
- 山椒魚怪獣バイロン(Byron)をはじめとした愛らしいソフビ作品が有名です。
- 今回の個展では作家にとっては初の絵画作品を中心としたアート作品を発表し、陰と陽をテーマとしたさまざまな感情を表現した作品を展示しています。
本記事では展示作品のうち13作品をピックアップし、作品への考察も交えてご紹介します。それでは、要点の内容を詳しく見ていきましょう!
ナカザワショーコとは?
ナカザワショーコさんは1972年生まれ、東京を拠点に活動している造形作家・アーティストです。女子美術短期大学造形 グラフィックデザイン教室を卒業されています。
グラフィックデザイナー、イラストレーターを経て、サンショウウオやヤモリなどの生き物をモチーフにしたソフビ怪獣の制作をしています。アクリル絵の具とデジタルメディアを用いた人間や幻想的な生き物の創造を通して、退廃的で自然な世界を作り出しています。また、2021年からは絵画制作もスタートしています。
主な展覧会に
- T9Gさんとの二人展「SxT ZINGARO」(2021、Hidari Zingaro、東京)
- 個展「CAMBRIAN」(2019、Dot Dot Dot Gallery、香港)
- 個展「BEASTS IN THE LOWEREAST」(2019、MYPLASTICHEART、ニューヨーク)
などがあります。
ちなみに、二人展をしたT9G(タクジ)さんはバイロンのアートディレクターを担当されたりもしている方です。
山椒魚怪獣バイロンとは?
山椒魚怪獣バイロン(Byron)とは、サンショウウオをモチーフにしたオリジナルのソフビ怪獣です。怪獣の子どもをイメージして作られているそうで、幼さを感じる表情が可愛らしいです。
ナカザワショーコさんは幼少期から昆虫や爬虫類、両生類といった生物、怪獣が好きだったそうで、制作するソフビ怪獣の造形にもその好みが反映されています。中でもオオサンショウウオは“この世で最も愛らしいフォルムの生物”なのだそう。
ソフビ作品はカラフルなバリエーションが数多く制作されていて、美しい彩色が特徴的です。
バイロンの他にもシードラス(Seedlas)やヤモリ怪獣トッケ(Tokke)といった怪獣シリーズも展開しています。
本展でもこれらのオリジナルキャラクターがモチーフとして登場しています。
展示作品を鑑賞
本展ではプラスの感情とマイナスの感情を描き分けた作品を中心に、ナカザワショーコさんのソフビでお馴染みのオリジナルキャラクターたちが色彩豊かなストーリーを展開しています。
陰と陽の世界観を表現した作品
2枚で対のテーマとなるペインティングシリーズ。陰と陽のさまざまな感情を表現した作品を両面の壁で向かい合う形で展示していました。
アトリエ 陽
アトリエで作品制作に励むバイロンの陽バージョン。全体的に暖色で温かみのある空間となっています。
机にはさまざまな色の絵の具が使われた跡があり、イーゼルに立て掛けられたキャンバス作品達を観るに制作も順調のようです。
窓からは陽光が差していて、その光の下で昼寝をしているシードラスや蛇のような生物が寝ているのも可愛らしいです。
部屋の中にデフォルメされた雲やひょうたんを繋げたようなもの、植物などがあるところに幻想的な世界観が現れているようです。
こちらの作品には作家によるストーリーも紹介されていました。
《アトリエ 陽》
ーHidari Zingaro Instagramより引用
明るい日差しの入るアトリエ
今日も名作が次々と生まれる!
筆の勢いは止まらない
誰も僕を止められない
何もかもが素晴らしい
空気までキラキラして、水晶のつぶつぶが降ってくるようだよ
はたして僕って天才じゃないかしら
アトリエ 陰
アトリエにいるバイロンの陰バージョン。こちらは寒色中心の彩りで、感情もブルーな印象を受けます。
陽バージョンとは一転し、机にはウイスキーやおつまみの晩酌セットがあり、イーゼルに立て掛けられたキャンバスはまっさらな状態で制作は進んでいないようです。バイロンはスマホに夢中で、自分の作品を観た感想をSNSでチェックしているように見えます。
このふたつの作品には“高い理想を持ち、モチベーションに溢れている自分と、そう思いながらもつい目先の誘惑に囚われてしまう自分”の姿が対峙して描かれているように見えます。感情の浮き沈みが色合いと共に、可愛らしく表現されていました。
こちらも作家による作品のストーリーが紹介されていました。
《アトリエ 陰》
ーHidari Zingaro Instagramより引用
もう朝からずっとスクロール
全然大事じゃない
むしろどーでもいい情報
わかってる
本当はだいぶ焦ってる
なのについつい逃げちゃう悪循環
破壊 陽
着ぐるみを着ている子供が足元を見て佇んでいる様子が描かれています。肩には芽を加えているように見える小鳥のような生物が乗っています。
子供が見つめる先には静寂な雰囲気のある水面上があり、そこにはオタマジャクシみたいな生物や浮かぶ家、三日月型をした突起物などが描かれています。
そんな様子から、まるで一度破壊され何もかもが無くなった跡地に、生命が誕生していく様子を描いているようだなと感じます。小鳥のような生物が若葉をくわえている様子からも、跡地に生命力が宿っていっていることを知らせているようです。
破壊 陰
《破壊 陽》と対面する形で展示していたのがこちらの作品です。子供の向く方向や色使い、トゲトゲしい描き方などから、陽と陰の対比が描かれていることが分かります。
背景には建物のような影が見え、それが赤く燃えている様子から、まさに破壊が巻き起こっている瞬間が描かれているようです。
そんな中、子供と緑色の生物の視線の先を観てみると、生き残ったのであろう小さな白いヒトの影が描かれています。個人的にはこれが、破壊衝動の中にわずかに残る理性を象徴した物にも見えました。その理性すら破壊したとしたら、破壊は繰り返されていくというストーリーが描かれているのかもしれません。
絵本のような物語を感じる作品
8枚組で1つのストーリーとなるペインティングシリーズ。絵本のような物語の展開を絵画で表現しています。作品はヒトにも動物にも共通する8つの感情「喜び・信頼・恐れ・驚き・悲しみ・嫌悪・怒り・期待」をテーマに描かれています。その中から今回は4つをピックアップして観ていきます。
信頼 帰ってきたら一緒に食べようね
まずは物語のスタートとなる「信頼」をテーマにした作品です。親であるバイロンが買ってきてくれたケーキを、子どものシードラスに見せている様子が描かれています。
楽しそうにケーキを一緒に食べているのを想像しているところから、親バイロンの視点で描かれた場面であることが分かります。子どもシードラスも目を輝かせ、尻尾を立てて喜びを表しています。
怒り ゴゴゴゴゴ…
その後に親バイロンが買い物に出かけるんですが、親がいない間に子どもシードラスが冷蔵庫にしまっていたケーキを無断で食べてしまいます。この作品には、その後の「怒り」が描かれています。
自分のケーキが残っていないことへの怒りから、火を纏うほど怒り心頭の親バイロンがビンを武器のように持っています。そんな様子も知らずに、欲望のままケーキを食べるシードラスは、この後かなり怒られます。
悲しみ せっかく一緒に…
親バイロンに怒られた後の「悲しみ」を描いた場面です。子どもシードラスは己の過ちに気付けたのか、とても悲しい表情をしています。親バイロンの方も芳しくない表情をしていて、怒り方に後悔しているように見えます。
作品の中には何匹か蛇のような生物が描かれています。傍観者のように様子を伺っている蛇もいれば、慰めるように子どもシードラスへ近づく蛇も描かれています。この状況からどう仲直りするかの相談にのってくれているのかもしれません。
喜び ホットケーキ一緒に食べよう ほんとにごめんね!
8枚組の作品の最後のワンシーンである「喜び」を表現した作品です。食べたケーキは返ってこないので、新たに生み出すという発想に至ったのであろう子どもシードラスが、パンケーキを作って振る舞っています。そんなことをしてくれた我が子に対して喜んでいる親バイロンの表情が印象的です。
単にパンケーキが食べられるということ以上に、子どもの行動から見える成長も喜んでいるようだなと感じます。陰と陽の感情どちらともあったから到達できる結果があることを教訓的に伝えている作品に見えました。
立体彫刻作品
今回の個展は油彩画が中心の展覧会でしたが、彫刻作品の展示もしていました。
バイロン/ゾンビバージョン
カイカイキキの立体造形チームとナカザワショーコさんの連携により生まれた、ゾンビバージョンのバイロン。表面はハンドペイントにより制作されているそうで、表面の生地感やホッチキスで止めている部分の金属感の表現も見応えがあります。
2枚で対のテーマとなるペインティングシリーズのちょうど真ん中に展示されていることから、陰と陽の両面を持ち合わせている姿を縫い合わせているようにも見え、混沌とした感情そのものを表しているようでした。
展示会場を眺める傍観者
傍観者たち
展示会場の一番奥の壁に展示されている作品の名前が《傍観者たち》というところが意味深に感じた作品です。
バイロンと子どもが陽だまりの下、まったりとした眼差しを向けているような雰囲気を感じます。
作品の放つ雰囲気は温かみがある一方で、行為としては現代で起きていることが反映されているようにも感じました。嬉しい時に喜び合ったり、悲しい時に寄り添ったりするにも、リモートによるコミュニケーションだと画面越しの距離感が生まれている様子が現れているようでした。
ちなみに、こちらの作品にもナカザワショーコさんによる作品の物語が記されていました。
《傍観者たち》
ーHidari Zingaro Instagramより引用
僕たちが今見ている
隠と陽のさまざまな世界
悲惨な光景がそこにあるのに
見ないフリか
ぼうっと眺めているだけ
まとめ
レトロな絵本の世界に入り込んだような雰囲気の絵画作品には、長年愛されているバイロンをはじめとした、ソフビシリーズのキャラクターの魅力が反映されていました。色彩豊かなところも、色鮮やかなソフビ作品を多数制作されてきたからこそではないかなと感じます。
また、陰と陽をテーマにした作品を鑑賞して、理想と現実の姿は多かれ少なかれ自分の中で共存しているなと感じました。内面の感情をアウトプットした絵画を目の前にすると、自身の実現にしたいけど恥ずかしい姿に対して、背中を押して表に出すことを応援してくれているようでもありました。
そして、今回の展示を通して“ソフビアート”という領域があることをより身近に感じました。日本独自のアニメやコミックのキャラクターがソフビとして登場するのは身近な出来事でしたが、それがアートとも親和性を持ったソフビアートとして領域を広げているのを実感しました。飾って、集めて、持ち運べて楽しめるのがソフビアートの魅力だなとも感じました。
展示会情報
展覧会名 | 陰陽向 – カゲヒナタ |
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会場 | Hidari Zingaro(Instagram:@hidarizingaro) 東京都中野区中野5丁目52−15 中野ブロードウェイ 3F |
会期 | 2022年9月15日(木)~2022年10月6日(木) ※閉廊日:水曜日 |
開廊時間 | 12:00~19:00 |
サイト | https://zingarokk.com/gallery/hidarizingaro/exhibition/24245/ |
観覧料 | 無料 |
作家情報 | ナカザワショーコさん|Instagram:@shokonakazawa |
関連リンク
ナカザワショーコさんと同じくソフビアートで有名なカシン・ローンさんも、ザ・モンスターズシリーズのアート作品を発表しています。
※サムネイル画像は撮影画像を元にCanvaで編集したものを使用しています。