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谷口真人「Where is your ♡?」|本当の姿と想像の姿との距離感を考察する

出かける前に鏡で身だしなみをチェックするとき、印象が良くなるように整えると思います。では、描かれた少女が鏡に映っていたとしたら、何をチェックしているのでしょうか?

今回は鏡に映るアート作品を展示していた、渋谷区神宮前にある「NANZUKA UNDERGROUND 2F」にて開催した谷口真人さんの個展「Where is your ♡?」の模様をご紹介します。

要点だけ知りたい人へ

まずは要点をピックアップ!

要点
  • 谷口真人(たにぐち まこと)さんは1982年生まれ、東京都出身のアーティストです。東京芸術大学大学院 美術研究科先端芸術表現専攻を修了されています。
  • 代表作のひとつに、少女を描いたアクリル板の裏側に鏡を設置し、アクリル板に描かれた少女の裏側を映し出す作品があります。
  • 本個展ではアクリル板と鏡を用いた新作13点を展示。本記事ではその中から5作品をピックアップしてご紹介!
  • 作品の描き方、ふたつの肖像、モチーフの3つの観点から作品を観ながら、作品に込められた意味についても考察しています。

それでは、要点の内容を詳しく見ていきましょう!

谷口真人とは?


谷口真人(たにぐち まこと)さんは1982年生まれ、東京都出身のアーティストです。東京芸術大学大学院 美術研究科先端芸術表現専攻を修了されています。

直近の主な個展は「We-presence」(2020、大阪)、「you」(2015、香港)、「Untitled」(2014、東京)、グループ展では「New Works」(2021、東京)、「JP POP UNDERGROUND」(2020、大阪)、「TOKYO POP UNDERGROUND」(2019、New York)など、日本を中心に東アジア、アメリカでも作品を発表しています。

アクリル板と鏡を用いた作品

《Untitled》
谷口真人、2022、Acrylic paint, grease pencil, acrylic board, wooden frame, mirror、H19 x W25.5 x D6.3 cm

谷口真人さんの代表作のひとつに、アクリル板と鏡を用いた作品があります本個展でもこの新作を発表していました。

今回の展示作品で説明すると、アクリル板にアクリル絵の具とグリースペンシルで少女が描かれています。その後ろに鏡が設置されていることで、アクリル板に描かれた少女の裏側が映し出されます。これにより、描かれたモチーフの表裏を観ることができる、箱型の作品となっています。

こうした箱型の作品以外にも、谷口真人さんはインスタレーション、アニメーション作品も制作しています。それらの作品が問いかけることのヒントが、プレスリリースにも書いてありました。こちらも鑑賞の助けにしつつ、作品を鑑賞してみると面白いかもしれません。

・・・多くの作品に、#親しみやすさ、#かよわさ、#儚さ、#Kawaii といったキーワードを連想させるような存在があらわれます。それは、感情移入を可能とするものとして谷口が仕掛けた最も重要なコードとも呼べるものです。SNS、人工知能、VR、メタバースといったITテック技術の進化によって、コミュニケーションの方法、ルート、スピード、エリアが劇的な変化を遂げる現代において、谷口の作品はシンプルに、しかし、だからより一層深い意味を持って私達に問いかけます。わたしたちの♡(ハート)は、どこに存在しているのか、と。
プレスリリースより引用

※グリースペンシル:芯にワックスを多く含み、ガラスや陶器などにも描ける色鉛筆のこと。

(参考)オークション下見会で観た2014年制作の作品

《Untitled》
谷口真人、2014、Acrylic paint, grease pencil, acrylic board, wooden frame, mirror、H62.7 x W53.2 x D12.9 cm(第47回SBIアートオークション下見会にて撮影)

個展での作品鑑賞は今回が初めてとなりましたが、以前SBIオークションの下見会に足を運んだ時に一度、出品されていた作品を鑑賞したことがありました。

今回はその時の印象が残っていたこともあり、タイミングよく個展へ足を運ぶ機会を得れました。

オークションで観た時の制作年は2014年となっていたので、そこからの作品の変化も合わせて見ても面白いかもしれません。

展示作品を鑑賞

今回の個展では2022年に制作したアクリル板と鏡を用いた新作を展示しています。

作品鑑賞をしていてまず気になるのが、「なぜあえてアクリル板にモチーフを描き、鏡に写しているんだろう?」ということではないでしょうか。

ただ、そこに明確な答えが提示されている訳ではありません。

そこで今回は、3つの観点で作品を考察しながら鑑賞を楽しんでみましょう!

1. 作品の描き方に焦点を当てて鑑賞

まずは作品の描き方に焦点を当てて観てみます。

《Untitled》
谷口真人、2022、Acrylic paint, grease pencil, acrylic board, wooden frame, mirror、H205.6 x W129.6 x D31 cm

ロングヘアの少女が直立した約2mの作品です。写真だとわかりにくいですが、グリースペンシルで顔から足まで、身体の輪郭が薄く描かれています。寒色を中心とした色合いも相まって、穏やかに鑑賞者と向き合っているように感じます。

鏡に反射して映るもう一人の少女は明かりを反射しているためか、濃く塗られた部分と筆のかすれた跡の差がより強調されて見えます。

このふたつの少女の肖像は見た目こそ似ていますが、よく観てみると

  • アクリル板に描かれた少女は、色彩が濃く見えること
  • 鏡に反射して映った少女は、輪郭を描いた線が濃く見えること

に気づきます。

こうした見え方の違いから、「本当の姿と想像上の姿との距離感」という言葉が思い浮かびました

例えば、写真で撮影した作品は実際に目の前で観る作品と完全に同じとはいえません。もちろん、写しているもの自体は本物ですが、写真は明るさや色合いを調節できるため、”写真をみる人にとって心地よい見た目に編集”できてしまいます。そのため、本物の作品と写真で撮影した作品との間には「違いという名の距離感」が生じます。

この作品も2つの肖像の間で、「違いという名の距離感」が発生しているように感じます

本来の姿と、よそ向きに見せたい姿に分けているともいえるかもしれません。その両方の存在を肯定できるかどうかを鑑賞者に聞いている作品だとしたら、直立して鑑賞者と対峙するような構図の意味も理解できたような気がして、面白いなと感じます

2. ふたつの肖像に焦点を当てて鑑賞

次に、ふたつの肖像から受ける印象に焦点を当てて観てみます。

《Untitled》
谷口真人、2022、Acrylic paint, grease pencil, acrylic board, wooden frame, mirror、H33 x W28 x D7.5 cm

こちらは、エレベーターの近くに展示している作品です。グリースペンシルで輪郭が描かれ、その上からアクリル絵の具で隙間を残しつつ彩色されています。

顔の部分は短めの筆致でトントンと筆を当てるように描いているためか、色が濃く乗っている印象があります。一方、髪はサラリと流すように描いている様子で、色が緩やかに乗っているように感じます。

SBIオークションで観た2014年の作品よりも今回の作品は景色に溶け込むような柔らかさがあり、例えるなら自分の本当の顔を隠しすぎない、ナチュラルメイクのような容姿に感じます

本当の顔を隠しすぎないナチュラルメイクのような容姿から感じること

《Untitled》
谷口真人、2022、Acrylic paint, grease pencil, acrylic board, wooden frame, mirror、H205.6 x W129.6 x D31 cm

最初に観た直立の少女が描かれたものと同じく、高さ約2mある大型作品です。

歩いているような構図で描かれた少女の作品で、鑑賞者を横目で見ながら微笑んでいるように見えます。鏡に映る少女も同様に微笑んで見え、アクリル板に描かれた少女と鏡に映る少女は双子のようです。

光の当たる加減もあるかもしれませんが、ふたつの肖像はよく似て見えます。ふたつの肖像の見せ方は違えど、与える印象は同じものになっているともいえます。そんな関係性から、本当の姿と相手に映る自分の姿(SNSの発信、職場での姿、外出先での振る舞いなど)との間に、差を無くしていくことに目を向けることを示唆しているように感じました

現代では個人が自由に発信できる場が増えているため、見せたい自分の姿をブランディングして見せやすくなりました。ただ一方で、ちょっとした言動などから本当の姿とのギャップに気づかれ、最悪の場合炎上しニュースになるような世の中になっています。

であれば、自分の中で大きな差を作り過ぎずに、ナチュラルメイクくらいの自然さで在ることもあって良いのではないかと。ありのままの自分自身の在り方を変えて、相手に映る自分の姿を変化させていく順番にも目を向けさせてくれる作品だなと感じました。

3. モチーフに焦点を当てて鑑賞

最後に、描かれている少女のモチーフに焦点を当てて観てみます。

《Untitled》
谷口真人、2022、Acrylic paint, grease pencil, acrylic board, wooden frame, mirror、H93.3 x W77.8 x D18.2 cm

ここまで観てきた、少女をモチーフとした作品群もアニメキャラクターのように見えましたが、個人的によりアニメキャラクターだと感じるのは、派手な色に髪を染めているときです。

この作品に描かれている少女も、リアルに人として現れたら服も赤っぽくてすごい派手だ!と感じるかもしれませんが、作品のキャラクターとして観るとかわいい存在に見えます。

人とキャラクターで異なる感情移入のしやすさ

《Untitled》
谷口真人、2022、Acrylic paint, grease pencil, acrylic board, wooden frame, mirror、H79.6 x W68.1 x D16 cm

展示フロアの奥に展示されている作品です。こちらも髪の色がピンク色と派手めで、鏡に映る少女の顔は微笑んでいるように見えます。こちらも可愛らしい作品です。

では、人とキャラクターによって感じる“かわいい”の違いは何なのでしょうか。

そこには、感情移入できるかどうかがあると考えられます

作品のキャラクターはかわいいという入口から心を許すため、存在を肯定しやすくなり感情移入もしやすくなります。一方で、見た目が作品のキャラクターのような人の場合は、見慣れない存在として心に一枚壁を作って警戒し、存在の様子見から始まるので、感情移入に時間がかかるのだと思います。

こうしたキャラクターへの親しみというのは、オタク文化が英語で“otaku culture”と翻訳されるように、日本では日常的な景色となっていることも表しているのかもしれません

日本の持つ文化が、想像上のキャラクターの存在を肯定しているのかもしれないと考察できる作品でした。

多様な見方をしながら作品鑑賞を楽しもう!

谷口真人さんの個展「Where is your ♡?」の作品をピックアップし、私見も交えて作品をご紹介していきました。

作品の描き方、ふたつの肖像、モチーフの観点から作品を観てみましたが、見方の違いで出てくる考察が違ってくるのは不思議ですね。それほど作品には鑑賞者がさまざまな受け取り方ができる余白を残しているのだと思います

写真で見た場合と実際に観た場合で、感じる印象も変わると思います。機会がある方は実際に作品鑑賞するのがおすすめですよ。

他にも違う考察もできると思うので、あなたにとっての鑑賞スタイルで、作品をじっくりと味わいながら鑑賞してみてください。

展示会情報

展覧会名Where is your ♡?
会場NANZUKA UNDERGROUND 2F
東京都渋谷区神宮前3丁目30−10 2F
会期2022年7月23日(土)〜9月4日(日)
※月曜、祝日休業
※夏期休業期間:8月11日(木)〜 8月15日(月)
開廊時間11:00〜19:00
サイトhttps://nanzuka.com/ja/exhibitions/makoto-taniguchi-where-is-your-heart/press-release
観覧料無料
作家情報谷口真人(たにぐち まこと)さん|Instagram:@makototaniguchi

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よしてる
東京でアート巡りををしながら「アートの割り切れない楽しさ」を探究している理系男子です。会社員をしながら、週末アートウォッチをしています。 2021年から無理のない範囲でアート作品の購入も始めました。 好きな動物はうずら。

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