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アートとカルチャーの接続が後世に残すものとは|MEET YOUR ART FESTIVAL 2024「NEW ERA」レポート

よしてる
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アートとカルチャーを接続するアートフェスティバル「MEET YOUR ART FESTIVAL」。

現代アートの分野で活躍するアーティストを中心に、多様なカルチャーとの接続が新たなアートの楽しみ方を育む試みがされているイベントです。

こうしたアートと現代社会との繋がりを模索する挑戦から、後世に残るものが生まれるかもしれません。

今回はそうした挑戦を感じる展示に目を向けながら、MEET YOUR ART FESTIVAL 2024「NEW ERA」の展示作品を紹介します。

MEET YOUR ART FESTIVALとは

「MEET YOUR ART FESTIVAL」とは、アートを軸に隣り合う多様なカルチャーを融合し、新たな発見や創造性を生み出す領域横断型のアートフェスティバルです。

2度の開催を経て、100名以上のアーティストが参加し、4万人が来場する「国内最大級のアートとカルチャーの祭典」と呼ばれています。

2024年のテーマは「NEW ERA」

2024年は「NEW ERA(新たな時代)」と題し、文化芸術の担い手となる人達とこれまで以上に協働し、イベントが創り上げられています。

国内外の多様な才能が混ざり合い、アートとカルチャー双方に新しい「うねり」を生むきっかけ作りがされているのが印象的です。

アートとカルチャーの接続に注目して展示作品を紹介

アートとカルチャーの接続を模索する挑戦の中には、社会の常識を覆すようなユニークな作品から、日々の生活の中に隠された美しさを再発見できる作品まで、多岐にわたります。

今回は「アートとの接続」に焦点を当て、印象的だった展示作品を紹介していきます。

アートと「日本の美意識」の接続:伝統文化の再解釈が生む思考

今年のMEET YOUR ART FESTIVALは「日本の美意識」をテーマに企画エリアが設計されていました。

まずはアートと日本の美意識の接続をテーマにした展示から見ていきます。

日本の美意識①:植物に感じる「無常感」や「安心立命」

まずは、植物を扱った作品から、日本人が持つ「自然」への美意識との関連性を考えていきます。

佐々木類さんは身の回りにある植物をガラスで挟み込んで焼成し、植物に含まれている水分や空気を視覚化する作品で知られています。

植物を通して今この時、この場所の環境情報を保存しているようで、その表現にガラスの経年変化しにくい特性も活かされています。

そうした作品の特徴から、滅びゆく儚さに見る生命の生き様を表す「無常感」を後世に保存する試みがされているようにも捉えられ、見た目の美しさだけではない美意識の奥深さが込められているようです。

佐々木類(ささき るい)さんは1984年、高知県生まれのアーティスト。
武蔵野美術大造形学部工芸工業デザイン学科ガラスコースを卒業後、米ロードアイランド・スクール・オブ・デザイン大学院ガラス科修士課程を修了されています。
訪れた場所で採集した植物を板ガラスに挟んで焼成する手法の作品制作で知られています。
Instagram:@ruisasaki_glass

もうひとつ、同じ植物をモチーフにした長谷川寛示さんの立体と平面作品を紹介します。

「彫刻にまつわる時間」をテーマにした作品は時間経過の可視化が試みられています。

例えば、経年変化で酸化する銀箔、モチーフの生花と時間をかけて制作した木彫の花を重ねた平面作品が関係し合う様子が特徴的です。

これらの作品には植物の無常感に加えて、木彫の「そのまま、変化しない」特徴にも目を向けさせます。

花の香りが毎年同じように、時間が経過しても変わらない様子は仏教用語の「安心立命(永遠に変わらない生命の在り方を知り安心すること)」が表現されているようです。

長谷川寛示(はせがわ かんじ)さんは1990年生まれ、三重県在住のアーティスト。
東京藝術大学美術学部彫刻科を経て、2016年に東京藝術大学大学院美術研究科彫刻専攻を修了されています。また、曹洞宗大本山永平寺で修行、僧侶となった経歴も持ち、2024年に還俗されています。
「彫刻にまつわる時間」をテーマのひとつに置き、セラミックと木彫を合わせた表現や平面作品も発表しています。
Instagram:@kanji_hasegawa

日本の美意識②:現代版に再解釈した「掛け軸」

床の間で日常と芸術をつなぐ役割を果たしていた掛け軸

その場、その瞬間にふさわしい掛け軸を選ぶ楽しみが非日常になった今、現代の日常に馴染む形で伝統的な掛け軸の美意識を継承する試みを感じたのが、能條雅由さんの作品です。

床の間に飾る掛け軸的な見た目に、既視感のある自然風景が落とし込まれた作品。

光の角度によって銀箔部分の表情が変わり、蜃気楼のような自然風景が浮き上がってきます。

掛け軸を現代的に解釈した作品は、床の間を超えて場所を問わず飾れる形をとりながら、掛け軸が持つ余白の美季節感を楽しむなどの美意識が受け継がれているようです。

能條雅由(のじょう まさよし)さんは、1989 年に生まれのアーティスト。
2015 年に京都造形芸術大学大学院修士課程を日本画専攻で修了されています。
現代的な表現と日本美術の伝統としての時の流れの表現を融合させるユニークな取り組みを行っています。
Instagram:@masayoshi_nojo

日本の美意識③:線から考える「調和」や「禅」

線と線が生む調和に日本の美意識を感じたのが、村山悟郎さんの作品です。

即興的な一筆のプロセスを紡いだ作品。

軽やかな線が共存し、まるで日本人の調和を重視する意識が表出されているようです。

異なる色の線とその間にある余白の調和にも、自然と生命が調和し生きているバランスの美しさを感じ取れるのが奥深いです。

村山悟郎(むらやま ごろう)さんは1983年生まれ、東京都出身のアーティスト。
2015年に東京芸術大学美術研究科博士後期課程美術専攻油画(壁画)研究領域を修了されています。
生命システムや科学哲学を理論的背景として、人間の制作行為(ポイエーシス)の時間性や創発性を探求しています。
Instagram:@goromurayama

また、髙山瑞さんの作品は文字や図像が持つ意味から解放する意味合いで、線を「掘る」表現を取り入れていました。

線を掘ることで、木の余白に「見えないものがある状態」を生み出している作品。

線は文字や図像に使われることで意味を持ちますが、中には意味を知らないと理解できないものも数多くあります。

例えば、草書で「字」と書かれた作品は知らないと読めない字で、その意味を線を掘ることで「見えない状態」にし、線そのものが持つ美しさに注目させます。

意味を削ぎ落とし、本質を見つめる様子は、禅の思想を反映しているかのようです。

情報過多といわれる時代で、意味を削ぎ落とすことで本質を捉える、日本の美意識とも通ずる思考を思い起こさせてくれます。

髙山瑞(たかやま みどり)さんは1993年生まれ、神奈川県出身のアーティスト。
武蔵野美術大学造形学部彫刻学科を卒業、東京藝術大学美術研究科彫刻専攻修士課程 を修了されています。
線と余白を主題に、木彫技法にて作品を発表しています。
Instagram:@_midori_takayama

作品自体の奥深さはもちろん、日本の美意識を再認識できる機会になるのも、接続が生む面白みです。

アートと「挑戦の最前線」の接続:アーティストの動向に触れる

アート・ワールドの渦中で挑戦を続けるアーティスト。

今回は数多くのアーティストが参加していましたが、気になるアーティストの継続的な作品鑑賞もアートの楽しみ方のひとつです。

今回をきっかけに、アーティストがどんな物語を紡んでいくのかを見続けていくのも、深い思考を生むきっかけになります。

ここでは本ブログで紹介したアーティストの過去記事を交え、思考と実験に満ちた挑戦の最前線を見ていきます。

渡邊涼太

削ぐ行為を通じて存在の曖昧さ捉えた作品が印象的な渡邊涼太さん

本ブログでは2023年に初めて紹介してから、2024年は久しぶりの個展を開催し、表現の進化が見て取れます。

【個展レポート】渡邊涼太「Reflection (Times)」|描き・破壊し蓄積した絵の具が映し出すリアリティ
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GORILLA PARK・渡邊涼太「SO」鑑賞レポート|未知の空間で味わう、曖昧な存在を捉え彫刻と絵画に着地させていくアート
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今回の展示では具象性を加えた新作も展示しており、削ぐと描く表現の探究を一層深めているようでした。

例えば、こちらの作品はモチーフの曖昧さに具象的な星を交え、不確実な時代の中で変わらないものを見つめることで、自分自身の在り方を見つめ直すきっかけを与えてくれているようです。

渡邊涼太(わたなべ りょうた)さんは1998年生まれ、埼玉県出身のアーティスト。
2023年に東京藝術大学大学院美術研究科 油画修士課程を卒業後、現在は東京を拠点に活動をしています。
元となる画像をデジタル上で切り取り、貼り付け、色反転といった工程を入れた後、アナログ上でも描き・破壊しながらペインティングする手法で絵画を制作しています。
Instagram:@wata_ryota_

山田康平

均一な色面の組み合わせが特徴的な山田康平さん

本ブログでは2023年に老舗ギャラリーTaka Ishii Galleryで開催された個展で初めて紹介しました。

山田康平個展「Strikethrough」|ストロークが重なる色面への没入を誘うアートをご紹介
山田康平個展「Strikethrough」|ストロークが重なる色面への没入を誘うアートをご紹介

今回の展示では自然光が差し込む位置に作品が配置され、繊細な筆致による色面と自然光の面が呼応する様子が印象的でした。

作品だけでなく、作品を飾る空間設計へのこだわりも感じます。

山田康平(やまだ こうへい)さんは1997年生まれ、大阪府出身のアーティスト。
2020年に武蔵野美術大学油絵学科油絵専攻、2022年に京都芸術大学修士課程美術工芸領域油画専攻を修了されています。
キャンバスにオイルを撒き、染み込ませた状態で色を重ねることで生まれる色面が特徴的な絵画を制作しています。
Instagram:@kumakuma0523

半田颯哉キュレーションによる展示「COPIC」

アーティストであり、キュレーターとしても活動している半田颯哉さん

2024年のコレクション展でのキュレーションは、広義の「参加型アート」に焦点を当てた重層的な空間設計が印象に残っています。

ゆとリーマン・高橋ゆうこうコレクション展「(Don’t) Keep It」|参加型アートが紡ぐ重層的な関係性
ゆとリーマン・高橋ゆうこうコレクション展「(Don’t) Keep It」|参加型アートが紡ぐ重層的な関係性

今回は画材のコピックとコラボした展示のキュレーションを担当。

指定の画材から生まれる独特の質感が生む、普段の作品制作とは違った表現が展示空間に溢れていました。

半田颯哉(はんだ そうや)さんは1994年、静岡県生まれ、広島県出身のアーティスト/インディペンデントキュレーター。
東京芸術大学大学院美術研究科先端芸術表現専攻修士課程および東京大学大学院学際情報学府修士課程を修了されています。
科学技術と社会的倫理の間に生じる摩擦や、アジア人/日本人としてのアイデンティティ、ジェンダーの問題を巡るプロジェクトなどを展開しています。
Instagram:@souya_h

アートと「価値判断」の接続:小作品や習作の行く末を買って楽しむ

小作品や習作など、いわゆる制作の過程で生まれた作品の価値はどう判断したら良いのか。

そうした疑問を実験的に検証・開拓する企画「マンマンデーSHOP」では、総勢16名のアーティストによる小作品や習作などが、アートとしては手頃な価格で販売していました。

マンマンデーとは

2024年よりアーティストの石毛健太さん、多田恋一朗さん、山田悠太朗さんが始めた、マイペースにアートの新しいフォームづくりを実践するアートプロジェクト。
今回のショップでは、さまざまな現代アーティストの思考実験的なもの(ドローイングや習作、なんでも)に市場価値を付与する実験企画で出展しています。
「マンマンデー」は中国語の言葉で「ゆっくりしているさま」を表わす語。
Instagram:石毛健太さん多田恋一朗さん山田悠太朗さん

日々の戦いから生まれた制作物を手頃な価格で販売し、その稼ぎでマイペースな制作活動に繋げていく取り組みは、新たな仕組みを生む実験場のようです。

この取り組みは鑑賞者にとってもアートを身近な存在にしやすい機会になっています。

気になるのは「アートの価値を担保していく動きとは異なる道になっている」疑問ですが、価格では測れないアートの魅力が制作物にあるのは変わりません。

例えば、美術館展示で小作品や習作を作品と同等に展示していることはよくあります。

手頃な価格で日々の制作物を販売したとしても、時間をかけた先で美術館へ届く可能性もあり得ます。

それを実験的に試みる取り組みが興味深い企画です。

アートと「YouTuber」の接続:黎明期の挑戦が可能性の種となる

動画共有プラットフォームの枠を超えて、活動領域を広げ社会に大きな影響を与える存在となったYouTuber。

YouTube産業が成熟し文化となった時に残るものがアートと呼ばれる可能性も示唆される中、黎明期から活動を続けるYouTuber「水溜まりボンド」の佐藤寛太さんがアートとの接続に挑戦した作品《目と眼》がありました。

佐藤寛太さんはメインチャンネルで6年間1日も休むことなく毎日投稿をしたり、個人チャンネルでは長年の編集力を活かした動画を制作したりと、映像に情熱を注いできたYouTuberです。

自身の映像制作チームと共に制作された作品は、YouTube黎明期から社会と接続してきた歴史を凝縮した、佐藤寛太さんならではの自画像的な作品となっています。

YouTuberの主戦場・ネットを象徴する青い有線は時代の渦に巻き込まれていく様子を、その中心は過去にバズった動画を想起させる映像作品、そして周囲の眼は視聴者を表しているようです。

また、映像作品に登場するアイテムは不思議と「玉」が多く(メントスコーラや1000度の鉄球、スーパーボールなど)バズるものを「人間の根幹を揺さぶるもの」と解釈しアートに活動の軌跡を接続しているように見えます。

YouTuber発で大規模なアートイベント出展は万人受けするとは限らない挑戦のはずで、その一歩目の開拓は尚更難しさがあると思います。

その過程も含め、現代のカルチャーとアートの融合への新たな挑戦が感じ取れ、映像をネット上に投稿し続けてきたチームの作品は、時代の渦の中で戦ってきたからこその強度があるように映りました。

佐藤寛太(さとう かんた)さんは1994年、マレーシア生まれのYouTuber。
2015年1月1日に「水溜りボンド」としてYouTuberデビュー。現在チャンネル登録者数は400万人を超えています。
また、個人チャンネル「カンタの大冒険」では、自身の編集力を発揮したショート動画を投稿し、再生数1億回を突破。登録者数100万人も達成しています。
Instagram:@kanta199404

まとめ:アートとカルチャーの接続が生む新たな美しさの形

今回の展示の中で行われるあらゆる挑戦は、世間では少数派であったり、当たり前すぎて見過ごされたりするかもしれません。

しかし、中にはある人の心に響き、後世で新たな美の発見へとつながる可能性もあります。

ここで取り組まれた挑戦が既存の価値基準を解除するきっかけとなるかもしれません。

アートとカルチャーの接続から生まれる、そんな創造的な出発点となる作品を楽しむきっかけにしてみてください。

MEET YOUR ART FESTIVAL 2024「NEW ERA」展覧会情報

展覧会名MEET YOUR ART FESTIVAL 2024「NEW ERA」
会期2024年10月11日(金) – 10月14日(月・祝)
開廊時間11日:16:00 – 21:00
※OUTSIDE MARKET・ライブパフォーマンス/DJエリアのみの開催
 (アートエリア・WHAT CAFEは終日内覧会)
12日 – 14日:11:00 – 20:00
※最終日は18:00まで
定休日なし
サイトhttps://artsticker.app/events/35712
観覧料当日チケット
一般:¥2,500
学生:¥1,500(要・学生証)
※中学生以下無料
<有料会場>
・アートエキシビジョン「SSS: Super Spectrum Specification」<寺田倉庫G1ビル>
・アートフェア「MEET YOUR ARTISTS」<B&C HALL>
・アートフェア「CROSSOVER」<E HALL>
・連携施設「WHAT MUSEUM」
作家情報佐々木類さん|Instagram:@ruisasaki_glass
長谷川寛示さん|Instagram:@kanji_hasegawa
能條雅由さん|Instagram:@masayoshi_nojo
村山悟郎さん|Instagram:@goromurayama
髙山瑞さん|Instagram:@_midori_takayama
渡邊涼太さん|Instagram:@wata_ryota_
山田康平さん|Instagram:@kumakuma0523
半田颯哉さん|Instagram:@souya_h
石毛健太さん|Instagram:@isg.k
多田恋一朗さん|Instagram:@tadakoiichiro
山田悠太朗さん|Instagram:@yutaro__yamada
佐藤寛太さん|Instagram:@kanta199404
会場東京・天王洲運河一帯 (寺田倉庫ほか)
東京都品川区東品川2丁目1-11

最新情報はInstagramをチェック!

ABOUT ME
よしてる
1993年生まれの会社員。東京を拠点に展覧会を巡りながら「アートの割り切れない楽しさ」をブログで探究してます。2021年から無理のない範囲でアート購入もスタート、コレクション数は25点ほど(2023年11月時点)。
アート数奇は月間1.2万PV(2023年10月時点)。
好きな動物はうずら。
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